iPhoneやiPadでシンセサイザーを始めるとき、最初に困るのは「無料」の意味が3種類あることです。本当に最後まで無料のもの、無料で入れられるが機能の大半が課金の先にあるもの、そしてシンセではなく音色を再生するだけのプレイヤー。App Storeの検索結果では、この3つが同じ「無料」の表示で並びます。
この記事では、2026年9月時点で日本のApp Storeから無料で入手できるシンセサイザーアプリを、課金の有無で3つに分けて紹介します。あわせて、AUv3(DAWの中でプラグインとして使える規格)への対応、iPhoneで使えるかどうか、合成方式、向いている用途を比較表にまとめました。
📌 この記事の3行まとめ
① 無料シンセは「完全無料」「無料版+課金」「音源プレイヤー」の3種類。まず区別する
② DAWで使うならAUv3対応が必須。GarageBandは無料のAUv3ホストとして使える
③ 最初の1本は、減算方式で、パラメーターが画面に全部見えているものを選ぶと音作りが身につく
⚠ 価格・仕様について
本記事の価格、課金形態、対応OS、AUv3対応の記載は、2026年9月時点のApp Store(日本)の公開情報と各アプリの説明文に基づいています。価格や課金形態は変更されることがあるため、ダウンロード前に必ずApp Storeの表示をご確認ください。当社が開発したKAGARIBI以外のアプリについて、当社は動作や内容を保証するものではありません。
選ぶ前に知っておくこと
AUv3とは
AUv3(Audio Unit v3)は、iOS・iPadOS・macOSで音源やエフェクトをプラグインとして扱うためのAppleの規格です。AUv3に対応したシンセは、GarageBand、Logic Pro、Cubasis、AUMなどのホストアプリの中で、他の音源と同時に鳴らし、プロジェクトの一部として保存できます。
単体で立ち上げて演奏するだけなら、AUv3対応は必要ありません。ただし、ドラムやベースと一緒に曲を組む段階になると、ホストの中で動かせるかどうかが決定的な差になります。この記事では、AUv3対応の有無を必ず記載しています。
「無料」の3分類
| 分類 | 意味 | 見分け方 |
|---|---|---|
| 完全無料 | 全機能が課金なしで使える | App Storeの「App内課金」欄に項目がない、または任意の寄付のみ |
| 無料版+課金 | 入手は無料。プリセット数や機能に制限があり、解除に課金が必要 | 「App内課金」欄に「フルバージョン」「Unlock」などの項目がある |
| 音源プレイヤー | プリセットの再生と軽い調整が中心。ゼロからの音作りは想定していない | 説明文に「プレイヤー」「サウンドライブラリー」とある |
3つ目は「シンセではない」という意味ではありません。曲を作るだけならプレイヤーで十分なことも多く、音作りを学びたいのか、音が欲しいのかで選ぶべきものが変わります。
完全無料で使えるシンセ
課金なしで全機能が使えるアプリです。開発元の説明文で「アプリ内課金なし」と明記されているもの、または任意の寄付(チップ)以外の課金項目がないものを選びました。
AudioKit Synth One(AudioKit Pro)
- 方式:減算方式(2オシレーター+サブ+FM、フィルター、ADSR、LFO、アルペジエーター、シーケンサー)
- AUv3:対応 iPhone:対応(初代iPhone SEは非対応と記載)
- 課金:なし。説明文に「広告なし、IAPもなし、いつまでも無料」と明記。オープンソース
iOSの無料シンセを語るなら、ここから始まります。300以上のプリセットを持ち、パラメーターがすべて画面上に並んでいるため、ノブを動かした結果がそのまま見える構成です。iPadでの表示を前提にした画面なので、iPhoneでは要素が小さくなります。
AudioKit Synth One J6(AudioKit Pro)
- 方式:Juno-6・Jupiterシリーズにインスパイアされた減算方式
- AUv3:対応 iPhone:対応
- 課金:なし(任意のチップのみ)。「広告なし、サブスクリプションなし」と明記
Synth Oneの系譜で、1980年代のRoland製ポリシンセの質感を狙ったものです。パッドやコードを弾くだけで「それらしい」音になるため、最初の1本としても使えます。バージョン番号がまだ1.0未満なので、機能の変更が続いています。
King of FM: DX Synth/E Piano(AudioKit Pro)
- 方式:FM系の音色をサンプル化したもの(DX7・SY77にインスパイアされた300以上の音色)
- AUv3:対応 iPhone:対応
- 課金:なし。「広告なし、サブスクリプションなし、全機能入り」と明記
FM音源の音が欲しいときの選択肢です。FMのアルゴリズムを自分で組む用途には向きませんが、エレピやベル系の音色を曲にすぐ入れられます。同社のFM Player 2はiPad専用でしたが、こちらはiPhoneでも動きます。
FM Essential(Yamaha)
- 方式:4オペレーターFM(8アルゴリズム、16音ポリ、8種のオペレーター波形)
- AUv3:対応(Audio Unit Extensions対応と記載) iPhone:対応
- 課金:なし。ヤマハのMXシリーズシンセを接続すると音色が拡張される
ヤマハが公式に出している本物のFMシンセです。DX100・TX81Z・V50由来の音色は、ハードウェア接続で解放されます。オペレーターのRatioやエンベロープを自分で編集できるので、FM音源の仕組みを手で確かめたい人に向いています。
Opaline FM/Aureline(Hideki Konishi)
- 方式:Opaline FMはFM(アルゴリズム・オペレーターのRatio/Detune/Level・キーボードスケーリングを編集可)。Aurelineは2オシレーターの減算方式+波形メモリ(8音ポリ、POLY MOD、アルペジエーター)
- AUv3:Aurelineは対応 iPhone:どちらも対応
- 課金:説明文に課金の記載なし
日本の個人開発者による2本で、いずれも数MBと軽く、iPhone単体で完結します。Aurelineは指で波形を描ける波形メモリを備え、GarageBandでAUv3として使えることが明記されています。
Spectrum Synthesizer Bundle(Thomas Burns)
- 方式:Mutable Instrumentsのユーロラックモジュールを移植した3種のAudio Unit音源+1種のエフェクト(マルチアルゴリズムのオシレーター、モーダル合成、グラニュラー)
- AUv3:対応(AUv3専用。ホストアプリが必須) iPhone:対応
- 課金:なし。オープンソース
単体では起動できず、ホストの中でだけ動きます。その代わり、物理モデリング系の「弦を擦る・吹く・叩く」音や、グラニュラーの質感を無料で手に入れられます。最終更新が2021年と古い点には注意が必要です。
Viking Synth(Blamsoft)
- 方式:モノフォニックのアナログシンセをエミュレート(3オシレーター、2つのラダーフィルター、LFO)
- AUv3:対応(AUv3専用) iPhone:対応
- 課金:2026年9月時点では無料で配信
Minimoog系の構成で、ベースやリードの音作りを学ぶ教材としても優秀です。AUv3専用なので、GarageBandなどのホストが必要です。
Mochizuki(iceWorks)
- 方式:4オシレーター(AM/FM/レゾネーター)+2フィルター。オシレーターを直列に接続できる
- AUv3:対応 iPhone:対応(iOS 18以降)
- 課金:説明文に課金の記載なし
2026年に公開された新しいシンセです。オシレーターを並列に混ぜるだけでなく、OSC4→OSC3→OSC2→OSC1と順に送り込める構成で、減算方式に慣れた人が次の段階へ進むのに向いています。
KAGARIBI:AUv3シンセ(Code and DESIGN)
- 方式:減算方式+ウェーブテーブル(2オシレーター、6種のウェーブテーブル、FM/リングモジュレーション/ハードシンク、6種のフィルター、3ENV+2LFO、8スロットのモジュレーションマトリクス)
- AUv3:対応(スタンドアロンとAUv3が同じDSPコアとプリセット保管庫を共有) iPhone:対応(iOS 17以降)
- 課金:なし。広告・トラッキング・通信なし。5MB
当社が開発したシンセです。他と違う点は、Sound Anatomyという機能で、いま鳴っている音の設定を読み取って「なぜそう聞こえるのか」を項目ごとに文章にします。詳しくは記事の後半で説明します。
無料版+アプリ内課金のシンセ
入手は無料ですが、プリセット数や機能に制限があり、解除にはアプリ内課金が必要なものです。「触ってから買う」ができるので、有料シンセの試用版として捉えると分かりやすいです。
Animoog Z(Moog Music)
- 方式:Anisotropic Synth Engine(ウェーブテーブルとベクター合成を拡張した方式)、16音ポリ
- AUv3:対応 iPhone:対応
- 課金:無料版は機能制限あり。フル機能はアプリ内課金
Moogの名前で無料で入れられる数少ないシンセです。X・Y・Zの3軸で音を動かす発想は他にないので、減算方式に飽きた人ほど楽しめます。同社のMinimoog Model DとModel 15は、2026年9月時点でそれぞれ5,000円の有料です。
Mela(Nikolozi Meladze)
- 方式:モジュラー(モジュールを入れ子にして音源・エフェクト・MIDIプロセッサーを組む)
- AUv3:対応 iPhone:対応(iOS 18以降)
- 課金:基本は無料、解除にアプリ内課金
ケーブルをつなぐ代わりに、モジュールを木構造に並べる方式のモジュラーです。パッチの配置がそのまま信号の流れになるので、画面が小さいiPhoneでもモジュラーが扱えます。
Mynth/Flynth/Polywave/Jynth(Fingerlab)
- 方式:Mynthは減算方式(カスタム波形を描ける)、Flynthは減算方式+アルペジエーター、PolywaveはKorg Wavestationに着想を得たウェーブテーブル・シーケンサー、JynthはRoland Juno-106を物理モデルで再現
- AUv3:いずれも対応 iPhone:対応
- 課金:無料版は12のファクトリープリセットと一部の機能。フルバージョンはアプリ内課金(iPhone・iPad・Macのユニバーサル購入)
4本とも同じ方針で、無料版で構成を試して、気に入ったら解除という流れです。ウェーブテーブルを触ってみたいならPolywave、Juno系の音が欲しいならJynthが分かりやすい選択です。
Audulus 4(Audulus)
- 方式:ノードをつなぐモジュラー環境
- AUv3:対応 iPhone:対応(iOS 18以降)
- 課金:モジュラー環境自体は無料。追加の「Pro Module」が有料
シンセを「使う」のではなく「作る」ためのアプリです。オシレーター、フィルター、エンベロープをノードとして自分でつなぐので、シンセの信号の流れを理解したい人には、既製のシンセより教材として向いています。
音源プレイヤーとして使えるもの
ゼロからの音作りではなく、用意された音色を鳴らすことが主目的のアプリです。曲作りに「今すぐ使える音」が欲しいなら、こちらの方が早いことがあります。
| アプリ | 内容 | AUv3 | 課金 |
|---|---|---|---|
| SynthMaster 3 Player(KV331) | デスクトップ版SynthMaster 3のプレイヤー版。200プリセットが無料 | 対応 | 追加の音色バンクが有料 |
| KORG Module(KORG) | 高品位ピアノ「Natural Grand」が無料。音源モジュールとして各種サウンドセットを追加購入 | 対応 | サウンドセットが有料。iPhoneでも動作するがiPad向けの設計 |
| GarageBand(Apple) | DAW。内蔵のAlchemyシンセとキーボード音源に加え、AUv3ホストとして本記事のシンセを読み込める | ホスト | なし |
GarageBandは、この記事で紹介したAUv3シンセを鳴らすための無料のホストとしても機能します。AUv3専用のSpectrumやViking Synthを使うなら、まずGarageBandを入れてください。
比較表
| アプリ | 方式 | AUv3 | iPhone | 課金 | 向いている人 |
|---|---|---|---|---|---|
| AudioKit Synth One | 減算 | ○ | ○ | なし | 最初の1本。パラメーターを全部見ながら学びたい |
| Synth One J6 | 減算(Juno系) | ○ | ○ | なし(チップのみ) | 弾くだけで曲に使える音が欲しい |
| King of FM | FM系サンプル | ○ | ○ | なし | エレピ・ベル系の音をすぐ使いたい |
| FM Essential | 4op FM | ○ | ○ | なし | FMのアルゴリズムを手で触りたい |
| Opaline FM/Aureline | FM/減算+波形メモリ | Aurelineは○ | ○ | 記載なし | iPhone単体で軽く使いたい |
| Spectrum | 物理モデル・グラニュラー | ○(専用) | ○ | なし | ユーロラック系の音が欲しい |
| Viking Synth | 減算(モノ) | ○(専用) | ○ | なし | ベース・リードの音作りを学びたい |
| Mochizuki | 4osc直列 | ○ | ○ | 記載なし | 減算の次の段階へ進みたい |
| KAGARIBI | 減算+ウェーブテーブル | ○ | ○ | なし | 音の「理由」を知りながら作りたい。微分音・MPEを使いたい |
| Animoog Z | ベクター/ウェーブテーブル | ○ | ○ | 無料版+課金 | 減算方式に飽きた |
| Mela | モジュラー | ○ | ○ | 無料版+課金 | iPhoneでモジュラーを組みたい |
| Fingerlab 4本 | 減算/ウェーブテーブル/Juno系 | ○ | ○ | 無料版+課金 | 買う前に構成を試したい |
| Audulus 4 | ノード式モジュラー | ○ | ○ | 基本無料+Proモジュール | シンセの中身を自分で組みたい |
| SynthMaster 3 Player | プレイヤー | ○ | ○ | 追加バンク有料 | プリセットを微調整して使いたい |
目的別の選び方
音作りを一から覚えたい
AudioKit Synth OneかKAGARIBIを勧めます。どちらも減算方式で、オシレーター→フィルター→アンプ→エンベロープ→LFOという基本の流れが画面にそのまま並んでいます。1つのノブを動かして音がどう変わるかを、視覚と耳の両方で追えることが重要です。
DAWで曲に組み込みたい
AUv3対応のものから選び、まずGarageBandで読み込めるかを確認してください。同じシンセでも、スタンドアロンで保存したプリセットがAUv3側から見えない設計のものがあります。作った音がホストのプリセット一覧にそのまま出るかどうかは、使い続けるほど効いてきます。
Lo-FiやHipHopのトラックに使いたい
ローズ系のエレピ、丸いベース、薄いパッドがあれば足ります。King of FMのエレピか、Synth One J6のパッドが早いです。ビートを組むサンプラー側と組み合わせる手順はLo-Fi HipHopの作り方にまとめています。当社のサンプラーKIZUNAはAUv3ホストとして動くので、KAGARIBIを音源にしてビートと一緒に鳴らせます。
FM音源を理解したい
FM EssentialかOpaline FMで、オペレーターのRatioとエンベロープを直接触ってください。FMの「なぜこの設定でこの音になるか」は、プリセットを鳴らすだけでは分かりません。理屈はFM音源の音作り入門で解説しています。
微分音・特殊な音律を使いたい
12平均律以外の音律を扱えるシンセは、無料・有料を問わず多くありません。KAGARIBIは純正律、ピタゴラス音律、都節・律・琉球などの日本の音階、19・24・31平均律、ボーレン・ピアースを含む16音律を内蔵し、Scala形式の音律ファイルも読み込めます。
KAGARIBIを無料で公開している理由
当社が開発した KAGARIBI:AUv3シンセ は、この記事の「完全無料」に分類されます。アプリ内課金も広告もなく、ネットワーク通信を行うコードを持ちません。
無料にしている理由は、シンセを触りはじめた人が最初にぶつかる壁を解消するために作ったからです。その壁は操作の難しさではなく、音は変わったのに、何が効いたのか分からないことです。
- Sound Anatomy:現在のパラメーターを読み取り、「ユニゾン3声・デチューン12セントで広がっている」「フィルターのエンベロープが+30%でアタックに開いてから閉じている」のように、その音がそう聞こえる理由を項目ごとに文章にします。プリセットを選んだ直後に読めば「この音は何でできているか」が、自分で動かしたあとに読めば「さっき動かしたものが音のどこに出たか」が分かります
- スタンドアロンとAUv3が同じ音源・同じ保管庫:アプリで作った音がホストのプリセット一覧にそのまま出ます。書き込みは原子的で、削除はゴミ箱に入ります
- MPE/MIDI 2.0:per-noteのピッチベンド、プレッシャー、CC74。MIDI 2.0の16bitベロシティにも対応します
- 16音律+Scala読み込み:音律はプリセットに同梱されるので、別端末でも同じ音程で開きます
- Live Safe:CPU%ではなく「いま安全に鳴らせる同時発音数」を表示し、負荷が締切に近づくと発音数を自動で下げて音切れを防ぎます
- 2026年9月のバージョン1.4では、GarageBandなどのAUv3ホスト内で音律の選択とサウンド名の表示を改善しました
音作りを体系立てて学びたい場合は、Sound Anatomyの解説末尾から、学習アプリSynth Brainの該当章へ進めるようにしています。楽器は楽器として完結させ、学びたい人だけが次へ進める形です。設計の詳細はKAGARIBIのリリース記事をご覧ください。
よくある質問
無料シンセだけで曲は作れますか
作れます。この記事の完全無料の欄だけでも、減算・FM・物理モデリング・ウェーブテーブルが揃います。足りないのはシンセではなく、ドラムとサンプラー、そしてそれらをまとめるホストです。GarageBandを加えれば一通り揃います。
iPhoneでも使えますか
この記事で紹介したアプリはすべてiPhoneで動作します(AudioKit Synth Oneは初代iPhone SEを除く)。ただし、iPad向けに設計された画面をiPhoneで使うと、ノブや文字が小さくなります。iPhone中心なら、Opaline FM、Aureline、KAGARIBIのようにiPhoneの画面で設計されたものの方が扱いやすいです。
AUv3対応のシンセが、ホストから見えません
ホスト側でAUv3の一覧を更新する必要がある場合があります。アプリを一度スタンドアロンで起動してからホストを再起動すると、一覧に現れることが多いです。AUv3専用のアプリ(Spectrum、Viking Synth)は、単体で起動できないのが正常です。
学ぶ順番はありますか
「波形だけを切り替える → カットオフだけを動かす → レゾナンスを足す → エンベロープを1つずつ → LFOを1本つなぐ」の順番を勧めます。1回に1つしか変えないことと、音量を揃えて比べることを守ると、何が音を変えたかが分かります。詳しくはシンセサイザーの音作り入門で解説しています。
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シンセの各ブロックの働きはシンセサイザーの音作り入門、FMの理屈はFM音源の音作り入門にまとめています。無料シンセを音源にしてビートを組むならLo-Fi HipHopの作り方を、作曲側の基礎は作曲のための音楽理論入門をご覧ください。


