音楽理論と聞くと、分厚い本と難しい記号を思い浮かべる方が多いと思います。実際、体系として学ぼうとすると膨大です。
しかし、「曲を1つ書く」ために必要な範囲は、驚くほど狭いというのが実際のところです。この記事では、その狭い範囲を、実際に使う順番で並べます。
📌 この記事の3行まとめ
① 最初に必要なのは キー と ダイアトニックコード の2つだけ
② 音名(C・D・E…)ではなく度数(Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ…)で覚えると、どのキーでも使い回せる
③ 譜面が読めなくても作曲はできる。読譜と作曲は別の技能
ステップ0:譜面は、あとでいい
先に誤解を1つ解いておきます。譜面を読む力と、曲を作る力は別物です。
譜面は「他人と正確に共有するための記法」です。作曲そのものに必須ではありません。実際、現代の制作ではピアノロール(横が時間、縦が音の高さのグリッド)で作業することが多く、そこでは音の高さと長さが見た目そのままで表示されます。
同じく、絶対音感も不要です。必要なのは、2つの音を比べて高いか低いか分かる程度の感覚だけです。これは訓練で伸びます(音程が合わない原因と直し方でも触れています)。
ステップ1:キーを決める=使う音を12個から7個に絞る
音楽で使える音は1オクターブに12個あります。ピアノの白鍵7つと黒鍵5つです。
ここでキー(調)を1つ決めると、主に使う音が7つに絞られます。これがスケール(音階)です。
たとえばCメジャーキーなら、使う音は ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ の7つ(ピアノの白鍵だけ)。残りの5つは、使わないわけではありませんが、基本の外側です。
これが音楽理論の最初にして最大の恩恵です。 選択肢が12から7に減り、しかも「その7つの中なら、だいたい何を選んでも合う」という保証がつきます。
メジャースケールの音の並び方には規則があります。半音の間隔で書くと、
全・全・半・全・全・全・半
どの音から始めても、この間隔で並べればメジャースケールになります。だから12個のキーがあるわけです。
マイナースケール(暗い響き)は、
全・半・全・全・半・全・全
という並びです。実は、メジャースケールの6番目の音から始めると、そのままマイナースケールになります。CメジャーとAマイナーが同じ音の集まりなのは、このためです。
ステップ2:度数で考える
ここが最重要です。音を名前ではなく、番号で覚えます。
Cメジャーキーなら、ドが1番目(Ⅰ)、レが2番目(Ⅱ)、ミが3番目(Ⅲ)……という具合です。
なぜこれが重要か。キーが変わっても、番号は変わらないからです。
| Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ | Ⅳ | Ⅴ | Ⅵ | Ⅶ | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| Cキー | ド | レ | ミ | ファ | ソ | ラ | シ |
| Gキー | ソ | ラ | シ | ド | レ | ミ | ファ# |
| Dキー | レ | ミ | ファ# | ソ | ラ | シ | ド# |
「Ⅰ→Ⅳ→Ⅴ→Ⅰ という進行は明るくまとまる」と一度覚えれば、すべてのキーで使えます。音名で覚えていたら、キーごとに覚え直しです。
歌の音域に合わせてキーを変える(移調する)ときも、度数で考えていれば表を横に読むだけで済みます。
ステップ3:ダイアトニックコード
スケールの各音の上に3つの音を積むと、そのキーで自然に響く7つのコードができます。これがダイアトニックコードです。
| 度数 | Cキーでのコード | 性格 |
|---|---|---|
| Ⅰ | C | 安定。曲の終着点 |
| Ⅱm | Dm | 少し切ない。Ⅴへ進みたがる |
| Ⅲm | Em | 浮遊感。Ⅰの代わりにも使える |
| Ⅳ | F | 広がる。展開に使いやすい |
| Ⅴ | G | 最も緊張が強い。Ⅰへ強く戻りたがる |
| Ⅵm | Am | 暗いが安定。Ⅰの親戚 |
| Ⅶm(♭5) | Bm(♭5) | 不安定。最初は使わなくてよい |
メジャー(明るい)とマイナー(暗い)の位置は決まっています。 Ⅰ・Ⅳ・Ⅴがメジャー、Ⅱ・Ⅲ・Ⅵがマイナー。これはどのキーでも同じです。
そして、この6つ(Ⅶを除く)だけで、ほとんどの曲は作れます。実際の進行の組み立て方はコード進行の作り方入門で詳しく扱っています。
ステップ4:リズムと拍子
音の高さと同じくらい重要なのに、軽視されがちなのがここです。
拍子は、何拍ごとに1つのまとまりとするかです。
- 4/4拍子:1小節に4拍。ポップス、ロック、ゲーム音楽の大半
- 3/4拍子:ワルツ。優雅、または不安定
- 6/8拍子:ゆったり揺れる。バラード、民族的
- 変拍子(5/4、7/8など):緊張感、特殊な場面
迷ったら4/4です。 曲の9割はこれで書けます。
テンポ(BPM)は1分間の拍数です。目安を挙げると、
| BPM | 印象 | 用途の例 |
|---|---|---|
| 60〜80 | ゆったり | バラード、静かな場面 |
| 90〜110 | 中庸 | 落ち着いたポップス、街のBGM |
| 120〜140 | 標準的に明るい | ポップス、フィールド |
| 150〜180 | 疾走感 | 戦闘曲、アップテンポ |
| 180以上 | 激しい | ボス戦、ハードコア |
ステップ5:メロディとコードの関係
「コードは決まったが、メロディが浮かばない」——ここでよく止まります。関係を知っておくと楽になります。
原則:そのコードに含まれる音(コードトーン)を使うと、必ず合います。
Cというコードが鳴っているとき、ド・ミ・ソを使えば絶対に外れません。逆に言えば、メロディに詰まったら、いまのコードの構成音を並べるだけで形になります。
それだけだと単調なので、次の段階に進みます。
- コードトーンを骨格に置き、その間をスケールの音でつなぐ——これが最も基本的なメロディの作り方です
- 強拍(1拍目・3拍目)にコードトーン、弱拍に通過音——こうすると、外れた感じが出ません
- 同じリズムを繰り返し、音程だけ変える——覚えやすいメロディの定番の作り方です
💡 メロディが凡庸になるときの処方
①音の跳躍を1か所だけ入れる(ずっと隣の音に進むと平坦になります)②同じ音を続ける部分を作る(動き続けると印象が薄れます)③休符を入れる(詰め込むと歌えません)。この3つで、たいてい改善します。
ステップ6:曲の構成
最後に全体の設計です。よくある形は次のとおりです。
ポップス型イントロ → Aメロ → Bメロ → サビ → 間奏 → Aメロ → Bメロ → サビ → サビ → アウトロ
ゲームBGM型イントロ(1回だけ)→ ループ部(A → B → A' → C)→ ループ部へ戻る
ゲーム音楽は繰り返し再生される前提なので、構成の考え方が変わります。詳しくはゲームBGMのループの作り方にまとめました。
いずれの場合も、まず8〜16小節を1つ作り、それを変形して増やすのが現実的な進め方です。ゼロから全部書こうとすると、まず途中で止まります。
覚えなくていいもの(今は)
理論書には多くのことが書かれていますが、最初の1曲には不要なものも多くあります。後回しでよいのは、
- 対位法、和声法の禁則(並達5度など)
- 転回形、テンションコードの細かい理論
- モードの詳細(ただし雰囲気づくりには早めに効きます → スケールとモードで場面を作る)
- 移調楽器、譜面上の記譜規則
- 音響学、倍音の物理
これらは、必要になった時点で調べれば十分です。理論は曲を作るための道具であって、試験科目ではありません。
学んだことを、耳で確かめる
音楽理論でいちばん危険なのは、読んだだけで分かった気になることです。「Ⅳ→Ⅴ→Ⅲm→Ⅵm は切ない」と読んでも、実際に鳴らさなければ身につきません。
当社が開発している Sing With Guitar 弾き語りとコード譜 は、そこを埋めるためのアプリです。App Storeの有料・音楽カテゴリで1位を獲得しました。
- コードを調べる:ルート音とコードタイプを選ぶと押さえ方が一覧で出て、タップすると鳴ります
- 進行を並べる:この記事で覚えた度数の並びを、そのままコード譜として組み立てられます
- 伴奏が鳴る:ストロークパターンを選ぶと、アプリが実際に弾いてくれます。理論の確認が「聴く」作業になります
- リズムがずれない:発音をオーディオクロック基準で予約する設計なので、伴奏のタイミングが安定しています
ギターを持っていない移動中でも、「この進行、実際どう聞こえるんだろう」を確かめられます。
チップチューンやゲーム音楽を作りたい方は ChipWave(16bit機方式)と MegaTune(FM音源)もあわせてどうぞ。制作の入り口はチップチューン完全ガイドにまとめています。

