FM音源は「難しい」と言われがちです。ツマミの名前が DT、MUL、TL、D1R… と略号ばかりで、しかも1つ動かすと音が予想外に変わる。減算合成(フィルターで削るタイプのシンセ)に慣れた耳には、確かに取っつきにくいところがあります。
ただ、中心にある考え方は1つだけです。それさえ掴めば、あとは各パラメータが「その1つ」のどこを触っているかの話になります。この記事では、そこから順に整理します。
📌 この記事の3行まとめ
① FM合成は「音で音を揺らす」。揺らされる側がキャリア、揺らす側がモジュレータ
② TL(音量)で歪みの量、MUL(周波数比)で倍音の性格が決まる。まずこの2つだけ触る
③ アルゴリズムは4つのオペレータの結線図。直列寄りは金属質、並列寄りは重ねた音になる
FM合成の中心にある、たった1つの考え方
普通のシンセでは、音の高さを決める信号(オシレータ)を鳴らし、フィルターで倍音を削って音色を作ります。FM音源は違います。あるサイン波の周波数を、別のサイン波で高速に揺らす。これだけです。
ゆっくり揺らせば、それはビブラートです。誰でも知っている効果です。ところが揺らす速度を可聴域まで上げると、耳はもう「揺れ」として認識できなくなり、代わりに新しい倍音が生まれたように聞こえます。これがFM(周波数変調)合成です。
用語は2つだけ覚えれば足ります。
- キャリア(Carrier):実際に耳に届く音。揺らされる側
- モジュレータ(Modulator):キャリアを揺らす音。それ自体は聞こえない
そして、モジュレータの音量を上げるほど揺れが激しくなり、倍音が増えて音が派手になります。FM音源で「音を歪ませる」というのは、この操作のことです。
まず触るべきパラメータは2つだけ
オペレータごとに10個以上のパラメータが並びますが、音色の性格を決めているのは実質2つです。
1つめは TL(Total Level)。オペレータの音量です。ただし注意点があり、YM2612系では値が大きいほど音が小さい(減衰量を指定する)方式です。
- キャリアの TL → その音自体の音量
- モジュレータの TL → 変調の深さ = 歪みの量・倍音の量
モジュレータのTLを絞っていくと、音はサイン波に近づきます。上げていくと、ざらついて金属的になります。FM音源の音作りの8割は、このスライダーの位置決めと言っても大げさではありません。
2つめは MUL(Multiple)。オペレータの周波数を、基準音の何倍にするかです。
| モジュレータのMULとキャリアのMULの関係 | 聞こえ方 |
|---|---|
| 1:1、1:2 など整数の単純な比 | 楽器らしい、まとまった倍音。ベースやブラス向き |
| 1:3、1:5 など奇数倍 | 中空の、木管やオルガンに近い響き |
| 1:7、1:11 など大きい比 | ざらついた、ノイジーな音 |
| 割り切れない関係になる組み合わせ | 鐘・金属・打楽器のような不協和な倍音 |
DT(Detune) は、そこからさらに微妙に周波数をずらす設定です。わずかにずらすと音に厚みとうねりが出ます。エレピの揺れる感じは、多くの場合これが効いています。
エンベロープは「4段階+α」で読む
FM音源のエンベロープは、一般的なADSRより1段階多い構成です。
| 記号 | 意味 | 効果 |
|---|---|---|
| AR | Attack Rate | 立ち上がりの速さ。最大にすると打鍵音、遅くすると弦のような入り |
| D1R | First Decay Rate | 立ち上がった後、最初に減衰する速さ |
| SL | Sustain Level | D1Rがどこまで下がったら次に移るか |
| D2R | Second Decay Rate | 押している間、さらにゆっくり減衰する速さ |
| RR | Release Rate | 鍵盤を離してからの減衰の速さ |
ポイントは、このエンベロープがオペレータごとに独立していることです。つまり、モジュレータのエンベロープを速く減衰させると、「弾いた瞬間だけ倍音が派手で、すぐ落ち着く」音になります。これがピアノやエレピ、ベースのアタック感の正体です。
減算合成でいう「フィルターエンベロープ」に相当するものを、FMではモジュレータのTLエンベロープで作る、と考えると理解が早いです。
アルゴリズム:4つのオペレータをどう繋ぐか
4オペレータ方式では、オペレータ4つの結線パターンが8種類用意されています。これがアルゴリズムです。図で覚えるより、両端で理解するのが実用的です。
- 完全な直列(1→2→3→4):変調が3段重なるので、最も倍音が多く、金属的・打楽器的。ベル、シンバル、効果音向き
- 完全な並列(4つとも独立して出力):変調がなく、サイン波を4つ重ねただけ。オルガンや柔らかいパッド向き
- その中間:2つのモジュレータで1つのキャリアを叩く、2組のペアを並べる、など。実用的な楽器音の多くはここ
覚え方はシンプルです。直列が長いほど激しく、並列が多いほど穏やか。まずは中間のアルゴリズム(2オペレータのペアが2組、など)から始めると扱いやすいです。
フィードバックは、第1オペレータの出力を自分自身に戻す設定です。上げるとノコギリ波のような倍音の多い音になり、さらに上げるとノイズに近づきます。ベースやリードに少量足すと芯が出ます。
定番音色の作り方(考え方のレシピ)
具体的な数値は環境によって変わるので、方向性を挙げます。
エレクトリックピアノ:2オペレータのペアを使う。モジュレータのMULをキャリアの1倍または2倍に、モジュレータのエンベロープを速く減衰させる。DTを少しかけて揺らぎを足す。アタックの瞬間だけ倍音が出て、すぐ丸い音になれば正解です。
ベース:キャリア側のARを最速に、モジュレータのTLは控えめ、MULは1:1か1:2。フィードバックを少量。低音は倍音が多すぎると濁るので、足りないくらいで止めるのがコツです。
ブラス:モジュレータのARをあえて遅くします。音の立ち上がりから少し遅れて倍音が増えるので、息を吹き込んで音が育つ感じになります。
ベル・鐘:直列寄りのアルゴリズムで、MULを割り切れない比(例:1に対して3.5相当の組み合わせ)にする。ARは最速、D2RとRRを長く。不協和な倍音がゆっくり消えていけば鐘の音です。
ノイズ・効果音:フィードバックを最大付近まで上げ、MULを大きくずらす。エンベロープを極端に短くすれば打楽器になります。
💡 音作りの進め方
いきなり4オペレータ全部を触らないでください。まず2オペレータ(キャリア1・モジュレータ1)で狙いの音を作り、それから残り2つで厚みや揺らぎを足す。この順番だと、どのツマミが何をしたのか毎回分かります。
PSGを足すと、一気に「あの時代」の音になる
16bit期のゲーム機では、FM音源だけでなくPSG(矩形波+ノイズ)が併載されていました。FMは音は豊かですが、チャンネル数が限られます。そこで、
- FM → メロディ、ベース、ブラス、ドラム
- PSG矩形波 → 高速アルペジオ、ハモリ、きらめきの装飾
- PSGノイズ → ハイハット、スネア、効果音
という分担が定石になりました。FM単体では出せない、あのざらついた同居感は、この組み合わせから来ています。PSG側の使い方はチップチューンの作り方入門で扱っているアルペジオやノイズドラムの話がそのまま当てはまります。
MegaTuneなら、iPhone・iPadで実機構成のまま組めます
当社が開発した MegaTune - FMチップチューンDAW は、YM2612 FM音源6ch と SN76489互換PSG 4ch を再現した音声コアを、iPhone・iPadのネイティブアプリとして実装したチップチューンDAWです。この記事で説明したパラメータが、そのまま画面に並んでいます。
- 4オペレータ・8アルゴリズムのFM音色エディタ。DT / MUL / TL / RS / AR / D1R / D2R / SL / RR / AM / SSG-EG をオペレータごとに調整
- チャンネル単位の AMS / FMS・左右パン・グローバルLFO
- 10トラックのピアノロール(FM 6ch+PSG矩形波3ch+PSGノイズ1ch)で、実機のチャンネル構成そのまま
- タッチ鍵盤とMIDIキーボードから、編集中の音色をその場で試奏
- VGM / VGZの読み込みとノート単位の編集、VGM 1.70での書き出し
- Z80 RAMとROMの見積り表示
UIのパラメータは内部でチップのレジスタ書き込みに1対1で落ちる設計なので、「どのツマミがどのレジスタで、音がどう変わるか」を触りながら確認できます。買い切り1,200円、追加課金はありません。
サンプル再生方式(スーパーファミコン系)の音作りに興味がある方は、スーパーファミコンの音はなぜあの音なのかとChipWaveもあわせてどうぞ。

