シンセの解説記事はたくさんあります。読めば「カットオフは高い周波数を削る」「アタックは音の立ち上がり」までは分かる。それでも、実際に音を作ろうとすると手が止まります。
止まる原因は、知識の量ではありません。どのノブを、どの順番で、どれくらい回すのかという手順が身についていないからです。この記事では、シンセの中を信号が流れる順番に沿って、各ブロックが「音の何を決めているのか」を整理します。
📌 この記事の3行まとめ
① 信号は オシレーター → フィルター → アンプ の順に流れる。この3つが音の骨格
② エンベロープは「時間とともにどう変わるか」を決める。AmpとFilterでは役割が違う
③ LFOは自動で動かすノブ。かける先(Destination)を変えると、まったく別の効果になる
シンセの中で、音はどう流れるか
減算方式(サブトラクティブ・シンセシス)と呼ばれる、最も基本的な構成を見ます。名前のとおり、倍音の多い音を作って、そこから削る方式です。
[ 信号の通り道 ]
オシレーター → フィルター → アンプ → エフェクト → 出力
[ それを時間で動かすもの ]
エンベロープ … ピッチEG / Filter EG / Amp EG
LFO … ピッチ / カットオフ / 音量 などへ
上が信号の通り道、下がそれを時間で動かすものです。この2段構造を掴むと、たいていのシンセの画面が読めるようになります。
| ブロック | 決めるもの | 音でいうと |
|---|---|---|
| オシレーター | 音の高さと、元の倍音構成 | 素材 |
| フィルター | どの倍音を残すか | 明るさ、太さ |
| アンプ | 音量 | 大きさ |
| エンベロープ | 時間による変化 | 立ち上がり、余韻 |
| LFO | 周期的な変化 | 揺れ、うねり |
1. オシレーター:素材を選ぶ
オシレーターは音の元になる波形を出します。波形の違いは、含まれる倍音の違いです。
| 波形 | 倍音 | 聴こえ方 | 向く音 |
|---|---|---|---|
| サイン波 | 倍音なし | 柔らかい、まっすぐ | サブベース、口笛、FMの素材 |
| 三角波 | 奇数倍音(少ない) | 丸い、控えめ | ベース、素朴なリード |
| ノコギリ波 | すべての倍音 | 派手、厚い | ストリングス、ブラス、リード |
| 矩形波 | 奇数倍音 | 中が空いた、木管的 | リード、ベース、レトロな音 |
| ノイズ | 全帯域 | 「シャー」 | ドラム、風、アタック成分 |
フィルターで削るのが基本方針なので、出発点は倍音の多い波形——ノコギリ波か矩形波——になることが多くなります。サイン波から始めると、削る材料がありません。
矩形波にはパルス幅(Pulse Width)という追加のパラメータがあります。波形の「上にいる時間」と「下にいる時間」の比率で、これを変えると音の細さが変わります。50%が矩形波、そこからずらすほど細く、鼻にかかった音になります。
デチューンとユニゾン
オシレーターを2つ使い、片方の音程をほんの少しずらすと、音が太くなります。これがデチューンです。
ずらす量は数セント(半音の1/100単位)で十分です。2つの波形の位相が周期的にずれることで音量がゆっくり波打ち、これが「うねり」として聴こえます。ずらす量を増やすほど、うねりは速くなります。
💡 デチューンの目安
5〜15セントで「太い」、20〜30セントで「にじんだ」、50セント以上は「音痴」に聴こえ始めます。まずは10セント前後から試すと感覚がつかめます。
2. フィルター:どの倍音を残すか
フィルターは、特定の周波数から上、または下を削ります。ここが音作りでいちばん効くブロックです。
| 種類 | 動作 | 用途 |
|---|---|---|
| ローパス(LP) | カットオフより上を削る | 最もよく使う。明るさの調整 |
| ハイパス(HP) | カットオフより下を削る | 低域の整理、細い音作り |
| バンドパス(BP) | 上下を削って中央だけ残す | 電話越しのような音、特徴づけ |
カットオフ
削り始める周波数です。下げると暗くこもり、上げると明るくなります。ローパスフィルターのカットオフを閉じていくと、倍音が上から順に消えていき、最後にはサイン波に近づきます。
レゾナンス
カットオフ付近の音を強調します。少し上げると音に芯が出て、上げすぎると「ピー」という発振音が出ます。
レゾナンスを上げながらカットオフを動かすと、あの「ワウワウ」という音が出ます。エレクトロやアシッド系の音は、ほぼこの操作でできています。
スロープ(12dB / 24dB)
削る急峻さです。24dB/octはばっさり削れて音がはっきり変わり、12dB/octは緩やかで元の倍音が少し残ります。ベースには24dB、リードやパッドには12dBが合うことが多くなります。
⚠ レゾナンスと音量
レゾナンスを上げると、その帯域だけ音量が跳ね上がります。「明るくなった」と感じたのが実は「大きくなっただけ」ということがよくあります。音量を揃えてから比べるのが、耳を鍛えるうえで重要です。
3. エンベロープ:時間による変化
エンベロープは「時間とともに値がどう動くか」を決めます。ADSRの4つで表すのが一般的です。
| パラメータ | 意味 | 短い / 小さいと | 長い / 大きいと |
|---|---|---|---|
| Attack | 立ち上がりの時間 | 打楽器的、鋭い | ふわっと入る |
| Decay | 減衰の時間 | 短く弾ける | 余韻が残る |
| Sustain | 押している間の維持レベル | 減衰していく音 | 持続する音 |
| Release | 離してからの余韻 | ぷつっと切れる | 残響のように残る |
重要なのは、エンベロープは1つではないということです。ほとんどのシンセには最低2つあります。
Amp Envelope(音量)
音量の時間変化です。アタックを0にすれば打鍵と同時に最大音量、長くすればフェードインします。パッド系の音は、ここが長い。
Filter Envelope(音色)
カットオフの時間変化です。ここが分かると、音作りの幅が一気に広がります。
たとえばプラック(弾いたような音)は、次のように作ります。
- Amp Envelope:アタック0、ディケイ短め、サステイン低め
- Filter Envelope:アタック0、ディケイ短め、Env Amountをプラス
- カットオフを中くらいに設定
すると、弾いた瞬間だけカットオフが跳ね上がり、すぐ閉じる動きになります。アタックだけ明るく、そのあと暗くなる——ギターやピアノを弾いたときの、あの音色変化です。
Env Amountをマイナスにすると逆で、弾いた瞬間だけ暗く、そのあと開く。金管のような、遅れて明るくなる音になります。
4. LFOとモジュレーション
LFO(Low Frequency Oscillator)は、耳に聞こえない遅さで動く波形です。これを何かのパラメータにつなぐと、その値が自動で揺れます。
大事なのはつなぐ先(Destination)で、同じLFOでも送り先が変わればまったく別の効果になります。
| 送り先 | 効果の名前 | 聴こえ方 |
|---|---|---|
| ピッチ | ビブラート | 音程が揺れる |
| 音量 | トレモロ | 音量が揺れる |
| カットオフ | オートワウ | 音色が周期的に開閉する |
| パルス幅 | PWM | 厚みがうねる |
| パン | オートパン | 左右に動く |
調整する要素は4つです。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| Source | どのLFO / エンベロープを使うか |
| Destination | どのパラメータへ送るか |
| Amount | どれくらい深くかけるか |
| Rate | どれくらい速く動かすか |
さらに極性(プラス方向かマイナス方向か)があります。Amountの符号を変えると、動きが逆になります。
💡 ビブラートの目安
Rateは5〜7Hz、Amountは半音の1/4程度。これで自然な歌唱のビブラートに近くなります。深くかけすぎると、すぐに効果音的になります。
音色別のレシピ
ここまでの要素を組み合わせると、代表的な音は次のように作れます。
| 音色 | オシレーター | フィルター | Amp EG | Filter EG |
|---|---|---|---|---|
| ベース | ノコギリ or 矩形+サブ | LP24、カットオフ低め | A:0 D:中 S:高 R:短 | Amount小、D短 |
| リード | ノコギリ2つを軽くデチューン | LP12、カットオフ高め | A:0 D:長 S:高 R:中 | Amount中 |
| パッド | ノコギリ2つを深めにデチューン | LP12、カットオフ中 | A:長 D:長 S:高 R:長 | Amount小、A長 |
| プラック | ノコギリ or 矩形 | LP24、カットオフ中 | A:0 D:短 S:低 R:短 | Amount大、D短 |
| ドラム(キック) | サイン波 | ほぼ開放 | A:0 D:短 S:0 R:短 | ピッチEGで急降下 |
このうちプラックの作り方を覚えると、応用が効きます。「アタックの瞬間だけ何かを大きく動かして、すぐ戻す」という考え方は、キック、スネア、ベースのアタック感、すべてに使い回せます。
学ぶ順番
一度に全部を触ると、何が効いたのか分からなくなります。次の順番をおすすめします。
- 波形だけを切り替えて聴く(フィルター全開、エンベロープはA:0 S:最大)
- カットオフだけを動かす
- レゾナンスを足す
- Amp Envelopeの4つを1つずつ動かす
- Filter EnvelopeのEnv Amountを、プラスとマイナスの両方で試す
- LFOを1本、送り先を変えながらつなぐ
- 2オシレーター、デチューン、エフェクトを足す
各段階で必ず守るのは、1回に1つしか変えないことと、音量を揃えて比べることです。この2つを崩すと、何が音を変えたのか分からなくなります。
実際に触りながら学ぶには
当社が開発した Synth Brain:シンセ音作りアプリ は、この記事の内容をそのまま学習カリキュラムにしたアプリです。
- 図解+用語カード:役割 → 正式用語 → 画面ラベルの順に導入
- A/B比較試聴:音量差と音色差を分けて聴き、取り違えを防ぐ
- 実習:内蔵シンセのノブを動かし、提示された目標の音へ近づける
- 耳のクイズ:明るさ、立ち上がり、うなり、変調を聴き分ける
- 上級カリキュラム:FM合成、ハードシンク、リングモジュレーション、シンセドラム、加算合成
FM音源という別方式の考え方はFM音源の音作り入門に、レトロゲーム音源での音作りはレトロゲーム効果音の作り方にまとめています。作曲側の基礎は作曲のための音楽理論入門をご覧ください。


