シンセを触りはじめた人が最初にぶつかるのは、操作の難しさではありません。音は変わったのに、何が効いたのか分からないことです。つまみを3つ動かしたあとで気に入った音が出ても、そこに戻る道が残らない。

その一点に手を入れた無料のシンセサイザー 「KAGARIBI:AUv3シンセ」 を、App Storeで公開しました。スタンドアロンでも、AUv3プラグインとしても使えます。

App Storeで見る(無料) | 製品ページ:KAGARIBI

📌 KAGARIBIの3行まとめ
Sound Anatomy が、いま鳴っている音の設定から「なぜそう聞こえるのか」を項目ごとに読み解く
② スタンドアロンとAUv3が同一のDSPコアと同一のプリセット保管庫を共有する
MPE/MIDI 2.0のper-note表現と、16音律+Scala読み込みを楽器本体で扱える

音を説明するのは、マニュアルではなく音自身でいい

シンセの解説は世の中にたくさんあります。それでも音作りが身につきにくいのは、解説がいま自分が鳴らしている音とつながっていないからです。「レゾナンスを上げると倍音が強調される」と読んでも、目の前のパッチのどこにそれが効いているかは分かりません。

KAGARIBIのSound Anatomyは、現在のパラメーターを読み取って、その音がそう聞こえる理由を組み立てます。

読み取る対象説明の例
ユニゾン3声、デチューン12セント、広がり25%。同じ波形をわずかにずらして重ねている
フィルターエンベロープ +30%。アタックで開いてから閉じる動き。ディケイ220msが輪郭を決めている
LFO5.2Hzでピッチへ。ビブラートとして働いている量
FXディレイのフィードバックと、リバーブの残響が占めている割合

プリセットを選んだ直後にこれを読むと、「この音は何でできているか」が先に分かります。自分でつまみを動かしたあとに読めば、さっき動かしたものが音のどこに出たのかが分かります。

解説の最後には、その技術を扱う章として学習アプリ Synth Brain の該当章名を出しています。実習そのものはKAGARIBIに入れていません。楽器は楽器として完結させ、体系立てて学びたい人だけが次へ進める形にしています。

音源エンジン

音は純Swiftの自作DSPで、外部ライブラリは使っていません。

OSC A ─┬─ アナログ波形(polyBLEP:サイン/三角/ノコギリ/矩形/パルス)
       └─ ウェーブテーブル6種(4フレーム × 8ミップ、帯域制限済み)
       ├ モーフ/フェーズベンド/ウェーブフォールド/フィードバック
       └ ユニゾン1〜7声(デチューン・ステレオ拡散・ブレンド)
OSC B ─ 同構成 + FM/リングモジュレーション/ハードシンク
SUB/NOISE(ホワイト・ピンク)
        ↓
FILTER  LP24/LP12/HP/BP/NOTCH/LADDER(非線形4極)
        ↓
AMP ENV ─ 最大32ボイス・ポリ/モノ/レガート・グライド
MOD     ─ 3 ENV + 2 LFO(7波形・テンポ同期)+ 8スロットのモジュレーションマトリクス + 4マクロ
ARP     ─ UP/DOWN/UP-DN/RANDOM/CHORD、音価同期、最大4オクターブ
FX      ─ DRIVE → TONE → PHASER → CHORUS → DELAY(ピンポン・同期)→ REVERB → COMP → LIMITER

折り返しノイズ対策には、polyBLEPとウェーブテーブルのミップ選択を併用しています。1サンプルあたりの位相増分から使える最大倍音を決め、高い音域では倍音の少ないテーブルへ自動で切り替える方式です。ウェーブテーブルは起動時にバックグラウンドで生成し、生成中はサイン波で代替するので、起動を待たせません。

スタンドアロンとAUv3が、同じ音源・同じ保管庫を見る

AUv3対応のシンセでよく聞く不満は、機能そのものではなく作った音の行き先にあります。AUv3の中で作った音が別のDAWから見えない、保存したはずの音が消える。

KAGARIBIは、アプリとAUv3拡張が同じDSPコア(Shared/)を2つのシェルから呼ぶ構成にしています。プリセットもApp Groupに置いた共通の保管庫を両方が参照するので、アプリで作った音がホストのプリセット一覧にそのまま出ます。

  • 書き込みは原子的。読めなかったファイルは削除せず、退避ファイルとして残す
  • 削除はゴミ箱へ(最大50件・復元可能)。即時消去しない
  • 保存形式はスキーマバージョンを持ち、読み込み時に移行する
  • ヘッダーのA/Bボタンで、2つの状態を行き来して聴き比べられる
  • ホストオートメーションは95パラメーターに対応

MPEとMIDI 2.0を、1か所で正規化する

KAGARIBIの内部表現は「ノートID+小数の音程+表情ストリーム」です。入力プロトコルの正規化は1つの関数だけで行い、スタンドアロン(Core MIDI)とAUv3(レンダースレッド)が同じ経路を通ります。音源側は、どのプロトコルで音が来たかを知りません。

  • MPE:チャンネル1をマスター、2〜16をメンバーとして扱うロワーゾーン規約。per-noteのピッチベンド(既定±48半音)、プレッシャー、CC74に対応します。通常のMIDI機器はすべてチャンネル1で送るため、同じ規則のまま従来どおり動きます
  • MIDI 2.0(UMP):メッセージタイプ0x2と0x4の両方を解釈し、16bitベロシティ、32bitのコントローラー値、per-noteピッチベンドに対応。Core MIDIの入力ポートをMIDI 2.0プロトコルで開くので、MIDI 1.0機器もUMPへ変換されて届きます
  • モジュレーションソースに PRESSURE(per-note優先)TIMBRE(MPEのY軸) を用意しています

CPU%ではなく、「音が切れるかどうか」を見せる

ライブや外出先での演奏で本当に困るのは、CPU使用率が高いことではなく、音が切れることです。KAGARIBIのLive Safeは、レンダー1回ごとに所要時間を測り、締切に対する余裕として管理します。

モード同時発音ユニゾンオーバーサンプリング
LIVE SAFE105なし
STUDIO(既定)167
OFFLINE HQ(書き出し専用)327

負荷が締切の75%を超え続けると発音数の上限を自動で下げ、余裕が戻れば元に戻します。上限に達したときに止めるのは、いちばん小さく鳴っている音です。画面に出すのはCPU%ではなく、いま安全に鳴らせる同時発音数です。

書き出し(Offline HQ)は演奏を止めずに別エンジンで走らせ、48kHz/24bitのWAVを作ります。

💡 レンダースレッドの規約
DSPのレンダー処理の中では、メモリ確保・ファイルI/O・ロック待ちを行いません。ロックは試行のみ(os_unfair_lock_trylock)で、取れなければその周期は前の値で進みます。音切れは、たいてい重い計算ではなく「待ち」から起きます。

12平均律の、その先へ

微分音や歴史的音律をiOSで扱うときは、専用のチューニング用AUv3を前段に挟む回避策が一般的ですが、その組み合わせはセッション復元で壊れることがあります。KAGARIBIは音律を楽器本体の機能として持たせました。

  • 内蔵16音律:12平均律/純正律/ピタゴラス/中全音律/ヴェルクマイスターIII/キルンベルガーIII、都節・律・民謡・琉球・陰旋、19・24・31平均律、ボーレン・ピアース(非オクターブ)、倍音音階
  • Scala .scl / .kbm の読み込み(Filesアプリから)
  • 音律はプリセットに同梱されるので、別端末でも、AUv3としてホストに保存した状態からでも同じ音程で開きます
  • 主音は12平均律と同じ高さに固定し、12平均律とのずれをセントで図示します
  • 基準ピッチAは415〜466Hzで可変。1周期の音数が12以外なら、鍵盤の並びもそれに従います

コントローラーの割り当ては、一度だけ

外部MIDIコントローラーの割り当ては端末に保存され、プリセットを替えてもアプリを終了しても残ります。プリセット変更でつまみの物理位置と値がずれたときは、つまみが現在値へ追い付くまで動かさない追い付き待ち(ソフトテイクオーバー)を入れているので、触った瞬間に音が飛びません。値が変わったら割り当て済みのCCへ現在値を返すため、LEDリングやモーターフェーダーも追従します。

端末内で完結する

アカウント登録なし、広告なし、第三者SDKなし、トラッキングなし、ネットワーク送信なし。データは端末内に保存され、完全オフラインで動作します。無料アプリですが、アプリ内課金もありません。

製品概要

項目内容
名称KAGARIBI:AUv3シンセ
提供開始2026年8月
対応OSiOS 17.0以降 / iPadOS 17.0以降
価格無料(アプリ内課金なし)
対応言語日本語・英語
カテゴリミュージック
配信App Store
開発・提供株式会社Code and DESIGN

会社概要

項目内容
会社名株式会社Code and DESIGN(Code and DESIGN inc.)
代表者代表取締役 中島安彦
事業内容iOSアプリ・ゲーム・Webサービスの企画・開発・運営、受託開発
Webサイトhttps://code-and-design.jp/
App Store開発者ページ

関連する記事

シンセの各ブロックが何をしているかはシンセサイザーの音作り入門に、FM合成の考え方はFM音源の音作り入門にまとめています。作曲側の基礎は作曲のための音楽理論入門をご覧ください。同日に公開したサンプラーKIZUNAと組み合わせると、音源とビートを1台ずつに分けて作れます。

つまみを回した結果が、言葉で戻ってくる。そこまでを楽器の中に入れておきたくて作りました。ご意見・ご要望はお問い合わせからお寄せください。

KAGARIBIをApp Storeで見る(無料)