Lo-Fi HipHopは、DTMの中でもっとも「始めやすくて、それらしくならない」ジャンルです。必要な要素は少なく、テンポも遅く、音数も少ない。それなのに、作ってみるときれいすぎるか、ノイズを乗せただけの音になります。

原因ははっきりしています。Lo-Fiの「らしさ」は、ノイズやローパスの量ではなく、コードの選び方、ドラムのずらし方、音の揺れ方の3つで決まるからです。この記事では、その3つを含めた8つの手順で、1曲を最後まで組み立てます。

📌 この記事の3行まとめ
① Lo-Fiの土台はセブンス系のコード進行遅いテンポのスウィング。質感は最後に足す
② 「打ち込みっぽさ」の正体は同じ音が同じ強さ・同じピッチで繰り返されること。ノイズでは消えない
③ サンプルを切る、ずらす、揺らす、汚す、書き出す、まではiPhone1台で完結する

Lo-Fi HipHopとは何か

Lo-Fi HipHopは、1990年代のヒップホップのビート(サンプリングしたジャズやソウルのループに、MPCなどのサンプラーで組んだドラム)を土台に、テープやレコードの劣化した質感を「欠点」ではなく「味」として前面に出したジャンルです。2010年代後半に動画配信の作業用BGMとして広まり、いまは「Lo-Fi」だけで一つのスタイル名として通じます。

音楽的な特徴を分解すると、次の5つに集約されます。

要素典型的な値・傾向
テンポBPM 70〜90(倍テンポで140〜180と数えることもある)
リズム16分音符にスウィング。キックとスネアがグリッドから少し遅れる
コードmaj7・m7・9thなどのセブンス系。ジャズやネオソウル寄りの進行
音色ローズ系のエレピ、ギター、ウッドベース、サンプリングしたホーンやボーカル
質感ローパス、テープのワウフラッター、ビニールノイズ、ビットクラッシュ、サイドチェインの揺れ

大事なのは表の上から順に決まることです。テンポとリズム、コードが決まれば、音色がきれいなままでもすでにLo-Fiに聞こえます。逆に、質感だけ真似ても土台がなければ「ノイズが乗ったポップス」にしかなりません。

用意するもの

  • サンプラーまたはDAW:ドラムを刻み、サンプルを切って並べられるもの。この記事の後半では、iPhone・iPad用のサンプラーKIZUNAで全手順を通します
  • コードを鳴らせる音源:エレピ系の音があれば十分です。無料のAUv3シンセKAGARIBIのようなシンセでも作れます
  • ヘッドフォン:低域の量とノイズの量を判断するため。スマートフォンのスピーカーでは、この2つが聞こえません
  • 素材:自分で録った音、権利をクリアしたサンプル、または合成した音。この点は後述します

手順1:テンポとスウィングを決める

最初に決めるのはテンポです。BPM 75〜85が中心で、遅いほど「くつろいだ」印象に、速いほど「歩いている」印象になります。迷ったら80から始めてください。

次にスウィングです。16分音符の裏拍(2つ目と4つ目の16分)を少し遅らせることで、ビートに「跳ね」が生まれます。設定の目安は次のとおりです。

スウィング量聞こえ方
50%(なし)機械的。Lo-Fiにはほぼ使わない
54〜58%わずかに揺れる。まずここから
60〜66%はっきり跳ねる。ジャズ寄り、MPC的

注意点が1つあります。8分音符のスウィングと16分音符のスウィングは別の「フィール」です。8分にかけると全体がシャッフルになり、16分にかけるとハイハットの裏だけが跳ねます。Lo-Fiで使うのはほぼ16分側です。両方を同じ値で管理するツールでは、片方を追い込むともう片方が崩れるので、別々に設定できるかを確認してください。

手順2:コード進行を選ぶ

Lo-Fiのコードは、三和音(ド・ミ・ソ)ではなく4つ以上の音を重ねたセブンスコードが基本です。三和音にもう1音足すだけで、明るい・暗いの二択から、「少し切ない」「宙に浮いた」といった中間の色が出せるようになります。

まず覚える進行を3つ挙げます。すべてCメジャー(またはAマイナー)で書きますが、実際にはキーを変えて構いません。

進行(ディグリー)Cメジャーでの例印象
IVmaj7 – iii7 – ii7 – Imaj7Fmaj7 – Em7 – Dm7 – Cmaj7ベースが1音ずつ下りる。Lo-Fiでいちばん多い形
ii7 – V7 – Imaj7Dm7 – G7 – Cmaj7ジャズの基本形。「解決した」感じが出る
vi7 – ii7 – V7 – Imaj7Am7 – Dm7 – G7 – Cmaj7短調から始まり長調に着地する循環

ディグリー(ローマ数字)で覚えておくと、キーを変えても同じ進行を使い回せます。大文字は長三和音、小文字は短三和音、maj7は長7度、7は短7度です。この読み方の詳細は作曲のための音楽理論入門にまとめています。

コードを鳴らすときのコツは2つです。

  • 転回形を使う:すべてのコードを基本形で弾くと、コードが変わるたびに手が大きく跳びます。共通する音を残し、動く音を最小限にすると、Lo-Fi特有の「静かに移り変わる」響きになります
  • 9thを1音足す:Cmaj7にレ(9度)を足してCmaj9にすると、一気にネオソウル寄りになります。全部に足すと甘くなりすぎるので、1小節目か最後のコードだけで十分です

もう1歩進めたい場合は、IVをIVm(サブドミナントマイナー)に置き換える借用和音が効きます。Fmaj7 – Fm7 – Cmaj7 のように、同じ位置のコードが長から短に変わるだけで、Lo-Fiらしい「翳り」が出ます。借用和音の考え方は借用和音と転調で曲を動かすを参照してください。

手順3:ドラムを「ずらして」組む

Lo-Fiのドラムは、要素が3つしかありません。キック、スネア(またはリムショット・スナップ)、ハイハット。この3つの置き方でジャンルが決まります。

基本のパターンは、キックが1拍目と3拍目の少し前後、スネアが2拍目と4拍目です。ただし、グリッドの上にぴったり置くと、Lo-Fiにはなりません。

  • スネアを少し遅らせる:グリッドから10〜30ms程度後ろへ。「もたる」感じが出ます
  • キックの2つ目を前に出す:1拍目のキックは正確に、3拍目の前の食ったキックはやや前へ
  • ハイハットにゴーストノートを入れる:本線の16分の間に、ベロシティ(強さ)を3〜4割に落とした音を不規則に挟む
  • ベロシティを揃えない:同じ強さで打った音は、それだけで機械に聞こえます。ハイハットは特に、1音ごとに強弱を変えてください

ここで一度、全部の音を同じ強さで鳴らした版と聴き比べてみてください。ノイズもフィルターも入れていないのに、ずらした方だけがLo-Fiに聞こえるはずです。リズムのずれを聴き取る感覚そのものはリズム感の鍛え方で扱っています。

手順4:ベースは「動かさない」

ベースは、コードのルート(根音)を全音符か2分音符で置くだけで成立します。ウッドベースやサイン波に近い丸い音で、1コードにつき1〜2音が目安です。

動かしたくなったら、次のコードへ移る直前の8分音符で、半音上か下からアプローチするだけに留めてください。それ以上動くと、コードの静けさが壊れます。

ミックス上の注意として、キックとベースは同じ帯域を取り合います。キックが鳴る瞬間だけベースが下がるようにサイドチェインをかけると、低域が濁らず、同時にLo-Fi特有の「呼吸する」揺れが生まれます。この揺れはコードやパッドにも同じ理由でかけます。

手順5:サンプルを切る(チョップ)

Lo-Fiの多くは、既存の録音を短く切り取って並べ直す「チョップ」で作られてきました。ここで扱う技術は、素材が自分の録音であっても同じです。

チョップの切り方は3通りあります。

切り方向いている素材
等分(EQUAL)テンポが一定のループ。8分割・16分割してパッドに並べる
アタック検出(ATTACK)音の立ち上がりが明確なもの。ピアノ、ギター、ドラムの単発
手動(LIVE)再生しながら「ここ」と叩いて切る。ボーカルやホーンのフレーズ

切ったスライスは、元の順番で並べずに、2〜4個だけ選んで順番を入れ替えるのが基本です。全部を使うと元ネタがそのまま聞こえてしまい、少なすぎると単調になります。スライスの一部を逆再生すると、元ネタらしさが消えつつ、Lo-Fiに合う「引っかかり」が生まれます。

また、元のピッチとテンポを変えるのも定番です。半音〜数半音下げて遅くすると、それだけで音がこもって落ち着きます。ピッチとテンポを別々に変えたい場合はタイムストレッチを使いますが、方式によって音の崩れ方が違うので、持続音にはトーン向け、ドラムにはビート向けの方式を選んでください。

素材の権利について

市販曲をサンプリングして公開する場合は、原則として原盤権と著作権の両方の許諾が必要です。趣味で自分だけが聴く分には問題になりにくいものの、動画やストリーミングで配信するなら、次のいずれかにしてください。

  • 自分で演奏・録音した素材
  • 商用利用可能と明記されたサンプルパック
  • アプリ内で合成された音(サンプル音源ファイルを持たないもの)

後述するKIZUNAの起動時キットとLo-Fiキットは、いずれもアプリ内でオシレーターとノイズから合成しており、工場サンプルの音源ファイルを同梱していません。

手順6:質感を足す

ここでようやく「Lo-Fiらしい音」の話です。順番を守ってください。土台ができてから、質感は最後に、少しだけ足します。

処理何をするか目安
ローパスフィルター高域を削るマスターで8〜12kHz以上をなだらかに落とす。個別トラックはもっと低くてもよい
テープワウフラッター(ピッチの揺れ)+サチュレーション+高域の減衰揺れは「言われれば分かる」程度。効きすぎると酔う
ビニールクラックル(パチパチ)+サーフェスノイズ(サー)+ランブル(低い唸り)クラックルは曲の頭と間奏で目立たせ、サビでは下げる
ビットクラッシュサンプルレート・ビット深度を落とすドラムだけ、または1パートだけ。全体にかけると聴き疲れする
サイドチェインキックに合わせて他の音を下げるパッドとサンプルに深め、ベースに浅め

失敗しやすいのはノイズの量です。Lo-Fiの「効く設定」は範囲が狭く、少なすぎると効果がなく、多すぎると耳障りになります。スマートフォンのスピーカーで聴きながら探すと、低域のランブルとサーフェスノイズが聞こえないため、ヘッドフォンで判断してください。

手順7:「打ち込みっぽさ」を消す

質感まで入れたのに機械的に聞こえる場合、原因はほぼ1つです。同じサンプルが、同じピッチ、同じ音量で、正確に繰り返されていること。テープやレコードから切り出した音は、1回ごとにわずかに違います。

対処は3つあります。

  • 一打ごとにピッチと音量をわずかに揺らす:±0.1〜0.4半音程度のランダムなピッチと、数dBの音量差。これだけで「同じ音」ではなくなります
  • 弱く叩いた音は暗くする:生楽器は弱く弾くと、音量だけでなく高域も減ります。ベロシティでフィルターのカットオフが動くようにすると、2枚しかないサンプルが何枚もあるように聞こえます
  • タイミングを揺らす:手順3で手で置いたずれとは別に、全体に数ms程度のランダムなゆらぎを足します

揺らすときに1つ気をつけたいのは、ランダムを毎回引き直さないことです。気に入った揺れが保存できず、書き出した音が聴いていた音と変わってしまいます。揺れの種をパターンから決める決定論的な方式なら、同じグルーヴは何度再生しても同じに鳴ります。

手順8:曲の形にする

Lo-Fiは2〜3分の曲が中心で、構成は単純です。

  1. イントロ(4〜8小節):サンプルかコードだけ。ビニールノイズを目立たせる
  2. Aセクション(8〜16小節):ドラムとベースが入る
  3. ブレイク(2〜4小節):ドラムを抜く、フィルターを閉じる、逆再生のスライスを置く
  4. Bセクション(8〜16小節):サンプルを差し替える、コードの一部を借用和音にする
  5. アウトロ(4〜8小節):要素を1つずつ抜いて、最後はノイズだけ残す

ドラムは2小節、コードは4小節、装飾は1小節、というようにパートごとにループの長さを変えると、同じ素材でも組み合わせがずれていき、長さの割に飽きにくくなります。ループの継ぎ目の考え方はゲームBGMのループの作り方と共通です。

ミックスと書き出しの目安

  • 低域はキックとベースだけ。他のパートは100Hz以下を切る
  • ラウドネスは上げすぎない。Lo-Fiはダイナミクスを潰さない方が「らしく」なる
  • マスターのリミッターは、ピークを止める保険として薄く
  • 書き出す前に、再生して聴いた音と書き出した音が同じかを確認する。再生と書き出しの経路が違うツールでは、揺れやサイドチェインの結果が変わることがある
  • DAWへ持ち込むなら、パートごとのステムを同じ長さ・同じ開始点で書き出すと、並べるだけで揃う

よくある失敗と直し方

症状原因直し方
ノイズを乗せてもLo-Fiに聞こえないコードが三和音、ドラムがグリッド通り手順2と手順3に戻る。質感は一度すべて外す
眠い、平坦すべてのパートが同じ音量・同じ帯域サイドチェインで揺らす。ハイハットにゴーストノートを足す
聴き疲れするビットクラッシュとサーフェスノイズが全体にかかっているノイズは1か所に。クラッシュは1パートだけ
元ネタがそのまま分かるスライスを元の順番で並べている2〜4個に絞る、逆再生を混ぜる、ピッチを下げる
書き出すと音が変わる再生と書き出しの経路が別同じエンジンで書き出せるツールを使う。ランダムの種を固定する

KIZUNAでこの手順を通す

当社が開発したiPhone・iPad用サンプラー KIZUNA サンプラー/ビートメーカー は、この記事の手順をそのまま1台で通せるように設計しています。Lo-Fi向けの機能は次のとおりです。

手順KIZUNAの機能
手順1 テンポとスウィング96 PPQNのシーケンサー。スウィングは8分・16分・32分で別々の値を保持
手順2 コード生成キット「LO-FI KIT」のローズ系音色。AUv3対応なので、KAGARIBIなど外部音源も使える
手順3 ドラムステップ入力とリアルタイム入力、パッド単位の1tickナッジ、ノートリピート、FEELによる決定論的なタイミング・ベロシティのばらつき
手順4 ベースLO-FI KITのウッドベース。サイドチェインはOFF / BREATHE / CLASSIC / SLAMのプリセットから長さ・カーブ・深さを差し替え
手順5 チョップEQUAL / ATTACK / LIVEの3方式。スライスの一定割合を裏返すREVERSE。4方式のタイムストレッチ(REPITCH / BEATS / TONAL / TEXTURE)
手順6 質感VINYL(クラックル+サーフェスノイズ+ランブル)とTAPE(ワウフラッター+サチュレーション+高域ロールオフ)。DUSTマクロがTAPE→VINYL→SHELF EQ→LIMITERを一発で組む
手順7 打ち込みっぽさDRIFT(一打ごとにピッチ最大±0.45半音とレベルを振る)、VEL > FILTER(弱く叩くと暗くなる)、パッド単位の逆再生確率。いずれもパターンから種を作るので、同じグルーヴは毎回同じに鳴る
手順8 構成バンクごとに違うパターン長、99シーン、ソングチェーン。ノブの動きはパターンに記録
書き出し再生と同じエンジンをオフラインで走らせるバウンス。パッド単体・シーン・バンク別ステム、Ableton Live Set/DAWproject/Logic Pro向けの書き出し

DUSTマクロを用意した理由は、手順6で書いたとおり、Lo-Fiの「効く設定」の範囲が狭く、スマートフォンで耳を頼りに探すところに時間を使うべきではないと考えたからです。適用後の各値はそのまま編集できます。

LO-FI KITは、きれいなキットをテープに通してもこの音にはならないため、わざと最初から鈍い音で合成しています。読み込むとFEELとスウィング、DUSTチェーンも一緒に設定されるので、キットを選んだ時点で手順1・6・7の初期値が入った状態から始められます。

録音については、パッドを押している間だけ録音し、離すとその音がそのパッドで鳴ります。身のまわりの音を拾ってLo-Fiの装飾音にする、という使い方が、録音画面を開かずにできます。設計の詳細はKIZUNAのリリース記事をご覧ください。なお、現在アプリ内の表示は英語のみです。

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