「チップチューンを作りたい」と思ったとき、最初に立ちはだかるのは技術ではありません。選択肢が多すぎて、どこから始めればいいか分からないという問題です。

ファミコン風、ゲームボーイ風、メガドライブ風、スーファミ風——これらは「レトロゲーム音楽」とまとめられがちですが、音の出る仕組みがまったく違います。目指す音が決まらないままツールを選ぶと、どれだけ触っても思っている音になりません。

この記事は、その最初の交通整理をするためのページです。個別の作り方は各記事にリンクしていますので、まずはここで全体像を掴んでください。

📌 このページで分かること
① 4つの主要機種の音源が、何がどう違うのか(合成方式・チャンネル数・制約)
② 自分が作りたい音は、どの機種を目指せばいいのか
③ トラッカーとピアノロール、どちらのツールを選ぶべきか

そもそもチップチューンとは

チップチューンは、家庭用ゲーム機やパソコンに載っていた音源チップの鳴らし方を土台にした音楽です。

当時のゲーム機は、録音済みの音楽を再生する容量がありませんでした。代わりに、音源チップに「この高さの音を、この波形で、この音量で鳴らせ」という命令を毎フレーム送り込むことで音楽を作っていました。曲データ=チップへの命令の列だったわけです。

だからチップチューンらしさは、単なる音色ではなく制約の形から生まれます。同時に鳴らせる音の数、使える波形の種類、メモリの容量——これらが機種ごとに違うため、機種ごとに音の性格がはっきり分かれます。

4機種の音源を比較する

まず全体を並べます。ここが本記事の中心です。

ファミコンゲームボーイメガドライブスーパーファミコン
合成方式波形生成(PSG系)波形生成(PSG系)FM合成+PSGサンプル再生(PCM)
同時発音数5410(FM6+PSG4)8
主な音色矩形波2・三角波1・ノイズ1・DPCM1矩形波2・任意波形1・ノイズ14オペレータFM 6ch・矩形波3ch・ノイズ1ch好きな音を録って使える
音色の自由度低(デューティ比のみ)中(波形を自分で描ける)(FMパラメータ多数)最高(サンプル次第)
音の性格硬く、明るい。輪郭がはっきり柔らかめ。独特の丸みざらついた金属質。太いベース曇っていて柔らかい。楽器が多彩
最大の制約三角波の音量が変えられない4音しかないチャンネルが足りないメモリ64KB

ファミコン(NES)— 硬くて明るい、原点の音

矩形波2つ、三角波1つ、ノイズ1つ、そしてDPCM(サンプル再生)1つの計5チャンネル。矩形波はデューティ比(12.5% / 25% / 50% / 75%)を切り替えられ、音量エンベロープとスイープ(音程の自動変化)を持ちます。

特徴的なのは三角波に音量調整がないことです。鳴らすか止めるかの二択で、しかも4bitの階段状の波形。この割り切りが、あの独特のベース音を作っています。

日本のファミコンでは、カセット側に拡張音源(VRC6、VRC7、FDS、N163、Sunsoft 5B など)を載せられました。同じ「ファミコン風」でも、拡張音源を使った曲は明らかに音数と音色が豊かです。

詳しくはファミコンの音源の仕組みで解説しています。

ゲームボーイ — 任意波形が使える4音

矩形波2つ、波形メモリ1つ、ノイズ1つの計4チャンネル。ファミコンより1音少ないのですが、代わりに大きな武器があります。

それが波形チャンネルです。32ステップ・4bitの波形を自分で描いて鳴らせるため、矩形波でも三角波でもない独自の音色が作れます。ゲームボーイの曲に妙に太いベースや、変わった音色が出てくるのはこれです。

このチャンネルを使いこなす文化を作ったのが、トラッカー LSDj(Little Sound Dj) です。ゲームボーイの音源とLSDj入門で詳しく扱っています。

メガドライブ — FM音源のざらついた質感

YM2612というFM音源チップ6チャンネルと、SN76489系PSG(矩形波3+ノイズ1)の計10チャンネル。FM合成を使う点が、ここまでの2機種と決定的に違います。

FM合成は、サイン波を別のサイン波で高速に揺らして倍音を作る方式です。パラメータが多く難しい代わりに、エレピ、ベル、ブラス、太いベースまで作れます。メガドライブの曲が「ピコピコ」ではなく、もっとざらついた金属質な印象なのはこのためです。

作り方はFM音源の音作り入門にまとめました。

スーパーファミコン — 曇った柔らかさの正体

方式が根本的に違います。録音した音(サンプル)を再生するPCM方式で、8ボイス・32,000Hz。理屈の上ではどんな楽器でも鳴らせます。

ただし、音源が使えるメモリは64KBしかありません。ここに全サンプルとエコー用バッファが同居します。そのため、サンプルは極端に短く切られ、BRRという圧縮を通され、再生時にはガウシアン補間で高域が丸まります。この積み重ねが、あの独特の「柔らかいが少しぼやけた」質感です。

さらにチップ側にエコーが内蔵されており、それが空間の広がりを作っています。詳しくはスーパーファミコンの音源の仕組みへ。

どの機種を目指すか、逆引きで決める

作りたい音から選ぶのが早道です。

作りたい音向いている方式
明るく硬い、いかにも「8bit」な音ファミコン系
少し丸くて、独自の波形も使いたいゲームボーイ系
太いベース、エレピ、ブラス、金属的な音FM音源(メガドライブ系)
オーケストラ風、生楽器っぽさ、幻想的なBGMサンプル方式(16bit機系)
自分で録った音を使いたいサンプル方式
とにかく作曲に集中したいサンプル方式(音色設計が要らないため)

FM音源とサンプル方式のどちらかで迷ったら、次の基準が実用的です。音色そのものを設計したい(ツマミを回して音を作るのが好き)ならFM、曲を書くことに集中したいならサンプル方式です。

トラッカーか、ピアノロールか

もう一つの分岐がツールの操作方式です。

トラッカーは、縦に時間が流れる表形式のエディタです。1行が1ステップ(1/60秒など)に対応し、音程・音量・エフェクトコマンドを文字で打ち込みます。当時の制作環境に近く、細かいコマンド制御が得意です。LSDjやFamiTrackerがこの系統です。

ピアノロールは、横軸が時間、縦軸が音程のグリッドです。現代のDAWと同じで、譜面のイメージがそのまま画面に出るため直感的です。

トラッカーピアノロール
学習コスト高い(コマンドを覚える必要)低い
細かい制御得意(アルペジオ、ピッチ、ボリューム)ツールによる
曲の全体像見えにくい見やすい
向いている人実機の挙動まで詰めたい人まず1曲完成させたい人

初めてなら、迷わずピアノロールを勧めます。 トラッカーのコマンド体系を覚える段階で挫折する人が非常に多いためです。作曲そのものに慣れてから、必要ならトラッカーへ移れば十分です。

学ぶ順番

遠回りに見えて、これがいちばん速い順序です。

  1. トラック構成を決める(メロディ・伴奏・ベース・ドラムの4本)
  2. 8小節だけ作る(曲全体はその変形でできています)
  3. 和音はアルペジオで鳴らす(音数が足りないので高速に切り替える)
  4. ドラムはノイズの長さで作り分ける
  5. エコーで空間を足す
  6. そこから、機種固有の技法(音色設計、拡張音源、コマンド)へ

1〜5は機種を問わず共通です。ここはチップチューンの作り方入門にまとめました。音楽理論はあとからでいい——ただし、コード進行を知っていると伴奏づくりが一気に楽になるので、詰まったらコード進行の作り方入門を挟むのが効率的です。

関連する記事

このサイトのチップチューン関連記事を、目的別に並べます。

作り方から入る

音源の仕組みから入る

データの扱い

音楽理論から補強する

制作環境:iPhone・iPadで完結させる

パソコンとオーディオインターフェースを揃えなくても、チップチューンは始められます。当社では、方式ごとに2本のアプリを開発しています。

ChipWave - レトロゲーム音楽チップチューン(1,200円・買い切り)16bit機のサンプル再生方式をネイティブ実装したDAWです。8トラックのピアノロール、BRR復号と4点ガウシアン補間、ADSR、8タップFIRのエコー、LFSRノイズ、ピッチモジュレーション。手持ちのWAVをBRRへ自動変換でき、64KBのメモリ予算も画面に表示されます。

MegaTune - FMチップチューンDAW(1,200円・買い切り)YM2612 FM音源6ch+SN76489互換PSG 4chの10トラック。4オペレータ・8アルゴリズムのFM音色エディタ、MIDIキーボード入力、VGM 1.70での書き出しに対応しています。

どちらも実機のチャンネル構成をそのままトラック構成にしているため、制約ごと身につきます。通勤中にノートを1つ置くところから始められます。

ChipWaveをApp Storeで見る | MegaTuneをApp Storeで見る