ファミコンの音楽は、いま聴いても不思議と古びません。音が5つしか鳴らないのに、曲として完全に成立している——そこには、制約と向き合った設計の跡があります。

この記事では、その5チャンネルがそれぞれ何をしていて、どんな制約を抱えていたのかを分解します。仕組みが分かると、「なぜあの曲はああいう作りになっているのか」が見えてきます。

📌 この記事の3行まとめ
① 5チャンネルの内訳は 矩形波2・三角波1・ノイズ1・DPCM1。役割が完全に決まっている
三角波には音量調整がない。この割り切りが、あの独特のベース音を作った
③ 日本のファミコンはカセット側に音源を追加できた。同じ「ファミコン風」でも音数が違う理由

5チャンネルの内訳

ファミコンの音源は、CPU(リコー2A03 / 2A07)に内蔵されたAPU(Audio Processing Unit)が担当していました。使えるのは次の5つです。

チャンネル種類主な役割音量調整
パルス1矩形波メロディあり(4bit・16段階)
パルス2矩形波ハモリ、伴奏あり(4bit・16段階)
三角波三角波ベースなし(鳴らす/止めるのみ)
ノイズ疑似ランダムドラム、効果音あり(4bit)
DPCMサンプル再生ドラム、ボイス実質固定

つまり、メロディに使えるのは実質2本です。この2本でメロディとハモリを両立させるか、片方を伴奏に回すか。当時の作曲者は、常にこの配分と戦っていました。

矩形波:デューティ比が音色のすべて

パルスチャンネル2本が、ファミコンサウンドの主役です。音色を変える手段は基本的に1つ、デューティ比だけです。

デューティ比とは、波形の「上がっている時間」の割合です。ファミコンでは4種類から選べます。

デューティ比音の印象使いどころ
12.5%細く、硬く、鼻にかかった音伴奏、アルペジオ、細い装飾
25%中間。芯があり通るメロディの定番
50%太く、丸い(純粋な矩形波)メロディ、ベース補強
75%25%と同じ音(波形が反転しているだけ)25%と切り替えて位相効果を狙う場合

75%が25%と同じ音に聞こえるのは、耳が波形の位相を区別しないためです。実質的な選択肢は3つ、と考えて構いません。

矩形波チャンネルには、さらに2つの機能があります。

音量エンベロープ:音量を4bit(0〜15)で指定できるほか、時間とともに自動で減衰させるモードがあります。ピアノのような減衰音や、伸ばす音を作り分けられます。

スイープ:音程を自動的に上げ下げする機能です。効果音(ジャンプ音、レーザー音)でよく使われました。曲中では、短い装飾やドラム的な音として使うこともあります。

三角波:音量が変えられないという割り切り

ファミコンで最も特徴的なのがこのチャンネルです。

三角波は32ステップ・4bitの階段状の波形を出力します。純粋な三角波ではなく、量子化された階段になっているため、わずかに倍音が乗ります。これが独特の存在感を生みます。

そして最大の特徴が、音量を変えられないことです。鳴らすか止めるかの二択しかありません。

この制約は、曲づくりに直接影響します。

  • ベースの強弱をつけられない → 音の長さと休符で表現する
  • フェードイン・フェードアウトができない → 音を切るタイミングで処理する
  • 音量で存在感を調整できない → オクターブの選択が重要になる

つまり、ファミコンのベースラインが歯切れよく、リズミカルに刻まれている曲が多いのは、これが理由です。伸ばすだけでは表情がつかないので、刻むしかなかったわけです。

なお、三角波を極端に高い音域で鳴らすと、音程感が崩れて「ボコボコ」した低い打撃音になります。これをバスドラム代わりに使うテクニックは当時から多用されました。1チャンネルで、ベースとキックを兼ねていたのです。

ノイズ:15bit LFSRの2つのモード

ノイズチャンネルは、LFSR(線形帰還シフトレジスタ)による疑似ランダム波形です。周波数は16段階から選べ、音量は4bitで調整できます。

重要なのは、2つのモードがあることです。

  • ロングモード(通常):周期が長く、いわゆる「シャー」というノイズ。ハイハット、スネア、波の音に使います
  • ショートモード:周期が短く、金属的でピッチ感のある音になります。ドラムというより効果音や、独特のパーカッションに使えます

このショートモードの存在が、ファミコンのパーカッションに幅を持たせています。「ノイズなのに音程があるように聞こえる」音は、これです。

ドラムの作り分けは、チップチューンの作り方入門で書いたとおり、周波数とエンベロープの長さで行います。

作りたい音ノイズ周波数減衰
ハイハット(クローズ)高め極端に速い
ハイハット(オープン)高めやや遅い
スネア中〜高速い
シンバル高め遅い
爆発・風低め遅い

DPCM:サンプルを鳴らせる5本目

DPCMチャンネルは、1bitの差分で圧縮されたサンプルを再生できるチャンネルです。ドラムの生音、短い声、独特の効果音などに使われました。

ただし、実用上の制約が多いチャンネルでもあります。

  • データ容量を食う。カセットのROMは貴重で、DPCMサンプルは大きい
  • 音程の自由が低い。再生レートを変えることでしかピッチを変えられない
  • CPUに負荷をかける。読み出しがCPUのメモリアクセスと競合し、コントローラー入力の読み取りに影響が出ることがある

このため、DPCMを使わずに4チャンネルだけで作られた曲も多くあります。逆に、生ドラムのサンプルを使った曲は当時としてはリッチな印象を与えました。

拡張音源:日本のファミコンだけの特権

ここは意外と知られていない部分です。

日本のファミコンは、カセット端子に音声ラインが通っており、カセット側に音源チップを載せて、本体の音とミックスできました。北米版NESにはこの配線がなく、拡張音源が使えません。

代表的な拡張音源は次のとおりです。

拡張音源追加されるもの
VRC6矩形波2(デューティ8種)+ノコギリ波1
VRC7FM音源6ch(YM2413系)
FDS(ディスクシステム)波形メモリ1ch(任意波形+変調)
N163波形メモリ最大8ch
MMC5矩形波2+PCM
Sunsoft 5B矩形波3(AY-3-8910系)

「このファミコンの曲、音が多くないか?」と感じたら、たいてい拡張音源です。特にVRC6のノコギリ波と、FDSの任意波形は、標準音源にはない質感を持っています。

チップチューンを作るときも、この違いは意識する価値があります。 「ファミコン風」を厳密に再現したいなら5チャンネルに絞る。音数が足りないと感じるなら、拡張音源相当のチャンネルを足す——という判断ができるからです。

制約から学べること

ファミコン音源の面白さは、制約が作曲を規定していた点にあります。

  • メロディ2本しかない → ハモリを入れると伴奏が消えるので、どちらを取るか毎回決める
  • ベースの音量が変えられない → リズムで表情をつける
  • ドラムはノイズ1本 → キックは三角波に逃がす
  • 音色の選択肢が少ない → 音符の並べ方で個性を出す

現代の環境では、これらの制約は存在しません。だからこそ、あえて制約を課すことが、逆に作曲の助けになります。選択肢が減ると、決断が速くなるからです。

💡 練習として有効な縛り
「同時に鳴らすのは4音まで」「ドラムはノイズ1本だけ」——この2つを課して8小節作ってみてください。音数の少なさをどう補うかを考えるうちに、アルペジオ・オクターブ・休符の使い方が身につきます。

実際に作ってみるには

当社が開発した ChipWave - レトロゲーム音楽チップチューン は16bit機のサンプル再生方式が土台ですが、この記事で扱った要素の多くはそのまま試せます。

  • 内蔵波形:パルス(デューティ比の異なる複数)、三角波、ノコギリ波、オルガン
  • LFSRノイズ:32段階の周波数制御でドラムを作り分け
  • ボイスごとのADSR / GAIN:エンベロープの長さでハイハットとシンバルを分ける
  • 8トラックのピアノロール:あえて4トラックだけ使えば、ファミコン相当の縛りで練習できます

FM音源(メガドライブ系)を目指すなら MegaTune の方が近く、そちらにはSN76489互換PSG(矩形波3+ノイズ1)が実機構成のまま載っています。PSGの矩形波+ノイズという構成は、ファミコンの矩形波2+ノイズにかなり近いため、8bit的な組み立ての練習にも向いています。

機種ごとの違い全体はチップチューン完全ガイドに、他機種の仕組みはゲームボーイの音源とLSDj入門スーパーファミコンの音源の仕組みにまとめています。

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