チップチューンを作ってみたいけれど、何から手をつければいいのか分からない。そう感じている方は多いと思います。楽器の経験がなくても、譜面が読めなくても、チップチューンは「使える音が少ない」という制約のおかげで、むしろ始めやすいジャンルです。
この記事では、レトロゲーム風の曲を1曲組み立てるまでの考え方を、順番に整理します。特定のソフトの操作説明ではなく、どんな環境で作る場合にも共通する土台の話です。
📌 この記事の3行まとめ
① チップチューンは「同時に鳴らせる音の数」が決まっているので、トラックの役割分担を先に決めると迷わない
② 和音はアルペジオ、ドラムはノイズ、空間はエコー——少ない音数を補う定石がある
③ まずは8小節だけ作る。曲全体は、その8小節の変形でできている
チップチューンとは何か
チップチューンは、ファミコンやゲームボーイ、メガドライブ、スーパーファミコンといった家庭用ゲーム機に載っていた音源チップの鳴らし方をベースにした音楽です。当時のゲーム機は、CD音源のような録音済みの音楽を流す余裕がなく、チップに「この高さの音を、この波形で鳴らせ」と命令して音楽を組み立てていました。
重要なのは、これが単なる「昔っぽいエフェクト」ではないという点です。チップチューンらしさは、次のような具体的な制約から生まれています。
- 同時に鳴らせる音(ボイス)が3〜10程度に限られる
- 使える波形が決まっている(矩形波、三角波、ノイズなど)
- 音を保存できるメモリが極端に小さい
制約があると、作曲の選択肢は減ります。しかしそれは同時に、「何を選べばいいか分からない」という初心者最大の壁が消えるということでもあります。
まず、トラックの役割を決める
チップチューンで最初につまずくのは、たいてい「音を重ねすぎて濁る」ことです。ボイス数が限られている以上、1トラック=1つの役割と決めてしまうのがいちばん早い解決策です。
古典的な4トラック構成なら、次のように割り当てます。
| トラック | 役割 | よく使う波形 |
|---|---|---|
| 1 | メロディ(主旋律) | 矩形波(デューティ50%または25%) |
| 2 | ハーモニー(伴奏・和音) | 矩形波(デューティ12.5%)/アルペジオ |
| 3 | ベース(低音) | 三角波、またはノコギリ波 |
| 4 | ドラム(リズム) | ノイズ |
これだけで曲は成立します。トラックが8本や10本使える環境でも、まずこの4本を埋めてから増やすほうが、結果的にまとまりのある曲になります。
増やすときの優先順位は、①ベースの補強(オクターブ下)、②メロディのハモリ(3度上や5度上)、③効果音的な装飾(高音のきらめき)、の順が扱いやすいです。
波形の選び方は、耳で決めていい
理屈から入る必要はありません。それぞれの波形には、はっきりしたキャラクターがあります。
- 矩形波(パルス波):チップチューンの主役。デューティ比(波の幅)を変えると音色が変わります。50%は太くて丸い音、25%は鼻にかかった中間の音、12.5%は細く硬い音。メロディは50%か25%、伴奏は12.5%が定番の分け方です。
- 三角波:柔らかく、角のない音。ベースに使うと低音が濁りません。オクターブを上げてメロディに使うと、フルートのような素朴な響きになります。
- ノコギリ波:倍音が多く、ざらついた音。ブラスやリード、あるいは強めのベースに向きます。
- ノイズ:音程を持たない「シャー」という音。ドラム全般をこれで作ります。
迷ったら、同じメロディを波形だけ差し替えて聴き比べてください。5分もかからず、自分の作りたい曲の方向が決まります。
和音は「同時に鳴らさず、高速で切り替える」
ボイス数が足りないので、Cメジャー(ド・ミ・ソ)を3トラック使って鳴らすと、それだけで伴奏が終わってしまいます。そこで使うのがアルペジオです。
やっていることは単純で、1トラックの中で、ド→ミ→ソ→ド→ミ→ソ…を極端に速く切り替えるだけです。1音あたり1/60秒程度で切り替えると、人間の耳には和音のように、あるいは独特の「ビリビリした響き」として聞こえます。チップチューンを聴いたときに感じる、あのせわしない和音の正体はこれです。
実践するときのポイントは3つです。
- 切り替え速度を変えると質感が変わる。遅くすると装飾音、速くすると和音として溶けます。
- 和音の構成音を変えれば、そのままコード進行になる。ド・ミ・ソ → シ・レ・ソ → ラ・ド・ミ、というように。
- メロディと同じトラックでは使わない。伴奏トラックに専念させます。
ドラムはノイズの「長さ」で描き分ける
ノイズは1種類しかないのに、なぜバスドラム・スネア・ハイハットが作れるのか。答えは音の長さと高さです。
| 作りたい音 | ノイズの設定 | 長さ |
|---|---|---|
| バスドラム | 低い周波数のノイズ、または短い低音 | 極端に短く |
| スネア | 中〜高域のノイズ | 短め(減衰あり) |
| ハイハット(クローズ) | 高域のノイズ | 極端に短く |
| ハイハット(オープン) | 高域のノイズ | やや長く |
| シンバル | 高域のノイズ | 長く、ゆっくり減衰 |
つまり、エンベロープ(音の立ち上がりと減衰)でドラムキットを作り分けるわけです。まずは「1拍目と3拍目にバスドラム、2拍目と4拍目にスネア、8分音符でハイハット」という8ビートの型を打ち込んでみてください。これだけで曲が一気に前に進みます。
エコーで、狭い音を広く聞かせる
チップチューンの音は、そのままだと平面的に聞こえます。ここで効くのがエコー(ディレイ)です。
- メロディにだけ軽く掛けると、旋律が前に出て空間ができます
- ベースには掛けない。低音のエコーは濁りの原因になります
- 掛けすぎない。原音が聞こえなくなる手前が上限です
16bit世代の音源では、エコーはチップ側の機能として用意されていました。ディレイ時間、フィードバック量、そしてフィルターの3つで音の広がりが決まります。「レトロゲームの曲なのに妙に立体的に聞こえる」曲は、たいていエコーの設計が丁寧です。
曲の作り方:8小節から始める
最後に、実際の手順です。いきなり2分の曲を作ろうとすると、ほぼ確実に途中で止まります。8小節だけ作るのが正解です。
- テンポを決める(明るい曲なら140〜160 BPM、落ち着いた曲なら90〜110 BPMあたりから)
- ドラムで8小節ぶんのリズムを作る(前述の8ビートでOK)
- ベースを乗せる(コードのルート音を4分音符で刻むだけでも成立します)
- 伴奏をアルペジオで乗せる
- 最後にメロディを書く(先にメロディを作ると、伴奏が付けられなくなりがちです)
この8小節ができたら、あとは変形です。メロディを1オクターブ上げる、ドラムを抜く、ベースだけ残す、コードを1つ差し替える。それぞれをA・B・サビとして並べれば、1曲の形になります。
💡 完成させるコツ
チップチューンは音数が少ないぶん、「引き算」がそのまま展開になります。サビの直前でドラムを1小節止める、Bメロだけ伴奏をオクターブ上げる——それだけで曲は動いて聞こえます。
ChipWaveなら、iPhone・iPadだけで完結します
ここまでの内容を実際に試すには、当然ながら音源が必要です。当社が開発した ChipWave - レトロゲーム音楽チップチューン は、16bitゲーム機の音源チップ方式をネイティブ実装したチップチューンDAWで、この記事で挙げた要素がひととおり揃っています。
- 8トラックのピアノロール:音源チップの8ボイスと1:1で対応。役割分担がそのままトラック構成になります
- 内蔵波形:パルス・三角波・ノコギリ波・オルガンをすぐに使えます
- ノイズチャンネル:32段階の周波数制御で、ドラムを作り分けられます
- 実機方式のエコー:ディレイ、フィードバック、8タップFIRフィルター
- ADSRエンベロープ:ボイスごとに立ち上がりと減衰を設定でき、ノイズからドラムキットを作れます
- 手持ちのWAVを取り込み:録った音やシンセの波形を、チップネイティブのBRRサンプルへ自動変換します
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音源チップそのものの仕組み(なぜあの質感になるのか)に興味が湧いた方は、スーパーファミコンの音はなぜあの音なのかもあわせてどうぞ。メガドライブ系のFM音源で作りたい方には、FM音源の音作り入門とMegaTuneがあります。

