相対音感の練習を続けて、単音のドレミは当てられるようになった。それなのに、曲を聴いて「いまIVからVに行った」が分からない。メロディは取れるのに、コードが取れない。

これは練習が足りないのではなく、練習の対象が1段階ずれていることが原因です。単音の聴音とコード進行の聴音は、同じ相対音感でも別の課題です。この記事では、その違いを整理したうえで、コード進行をディグリー(ローマ数字)で聴き取れるようになるための練習手順をまとめます。

📌 この記事の3行まとめ
① コード進行は「音の高さ」ではなく「主音から見た役割の連なり」として聴く。だからキーが変わっても同じ名前で呼べる
② 最初に覚える動きは4つだけ。V→I、IV→I、V→vi、ii→V→I。定番進行はこの組み合わせ
③ 単音の相対音感が土台になる。ベースを移動ドで歌えることが、コードを聴き取る最短経路

単音が取れても、コードが取れない理由

単音の聴音で鍛えているのは、「いま鳴った1音が、主音から見て何度か」を聴く力です。相対音感の基本で書いたとおり、これは音を「距離」ではなく「役割」で聴く練習であり、耳コピや歌の土台になります。

コード進行では、聴く対象が3つの点で変わります。

単音の聴音コード進行の聴音
同時に鳴る音1音3〜4音
聴く対象その音の度数和音のルート(根音)の度数と、長短の性質
時間の流れ1音ずつ1〜2秒ごとに和音が入れ替わり、前後の関係で意味が決まる

3〜4音が同時に鳴ると、単音の練習でやっていた「1音の度数を聴く」がそのまま使えません。上の音に耳が引かれてルートを見失う、あるいは全部の音を聴こうとして何も残らない、という状態になります。

解決の方向は明確です。和音を全部聴くのをやめて、ルートの動きだけを追う。そして、そのルートを移動ドで歌う。これができれば、コード進行は「ベースのメロディ」に変わり、単音の聴音で鍛えた力がそのまま使えます。

ディグリーで聴くと、キーが消える

コード進行を聴き取るときの言語は、コードネーム(C、F、G)ではなくディグリー(I、IV、V)です。理由は単音のときと同じで、キーが変わっても役割は変わらないからです。

表記意味
I・IV・V主音から数えて1・4・5番目の音をルートにした長三和音
ii・iii・vi2・3・6番目をルートにした短三和音(小文字)
vii°7番目をルートにした減三和音
maj7/7長7度/短7度を加えた四和音(Imaj7、V7)
♭III・♭VI・♭VII短調や借用和音で出る、半音下げたルート
V7/viviへ向かう副属和音(セカンダリードミナント)

「C – G – Am – F」と「E – B – C♯m – A」は、コードネームで見ると別物ですが、ディグリーではどちらも I – V – vi – IV です。耳が聴いているのは後者の方で、だからこそ、ディグリーで覚えた進行はどのキーで鳴っても同じものとして聴こえるようになります。

大文字と小文字の区別は、聴き取りの2つ目の手がかりです。ルートの度数が分かっても、長三和音か短三和音かを聴き分けないと、IVとivのような借用和音は区別できません。

最初に覚える4つの動き

コード進行は何百種類もありますが、耳で聴くときの「動き」は、まず4つで足ります。定番進行は、この4つの組み合わせでできています。

動き名前聴こえ方
V → I完全終止「帰ってきた」。もっとも強い解決
IV → Iプラガル終止「アーメン」の響き。柔らかく落ち着く
V → vi偽終止帰ると思ったら、短調の方へそらされる
ii → V → Iツー・ファイブ・ワン助走をつけて帰る。ジャズの基本形

練習の順番も、この表のとおりです。V→Iが聴き取れないうちに4小節の進行を当てようとしても、手がかりがありません。まず2つのコードだけを鳴らし、「帰ったか、帰らなかったか」を聴くところから始めてください。

そのために欠かせないのが、主音の位置を先に耳に立てることです。I – IV – V – I のカデンツを最初に聴いてから問題のコードを聴くと、「ド」がどこかが分かった状態で、ルートの動きを追えます。カデンツで調を立てる方法は相対音感の練習手順にまとめています。

定番進行を「ベースの動き」で聴き分ける

4つの動きが聴こえるようになったら、ポップスで繰り返し使われる進行を、ベースの動き方で覚えます。

進行通称ベースの動き(移動ド)手がかり
IV – V – iii – vi王道進行ファ → ソ → ミ → ラ最初のコードがIではない。ソからミへ落ちる感じ
vi – IV – I – V小室進行型ラ → ファ → ド → ソ短調で始まって長調に抜ける。最後がVで終わるので次に戻りたくなる
I – V – vi – IVポップスの四和音ド → ソ → ラ → ファIから始まり、ソからラへ半歩上がる
I – V – vi – iii – IV – I – IV – Vカノン進行ド → ソ → ラ → ミ → ファ → ド → ファ → ソ8小節で1周。ベースが下り階段のように動く
I – vi – IV – V50年代型循環ド → ラ → ファ → ソIからラへ落ちて、ファ・ソで戻る
I – vi – ii – V循環コードド → ラ → レ → ソ最後のii→Vがツー・ファイブの形

ここで注意したいのは、最初のコードが必ずIとは限らないことです。王道進行はIVから、小室進行はviから始まります。先に聴いたカデンツで主音を保ち続けていないと、1つ目のコードをIだと思い込んで、以降が全部ずれます。

もう1つの手がかりは長さです。4小節の進行と8小節の進行は、聴き分ける前に「何個コードが鳴ったか」で候補が絞れます。ただし、それだけで当ててしまうと耳の練習になりません。同じ長さの選択肢の中から、ルートの動きで選ぶようにしてください。

短調の進行は、主音を「i」に置く

短調では、主音の和音が短三和音になるので i と書きます。それ以外のルートは、同じ主音の長音階を基準に表記します。短調の3・6・7番目の音は長音階より半音低いので、♭III・♭VI・♭VIIになります。

進行名前聴こえ方
V → i短調の完全終止長調と同じ強さで帰る。Vが長三和音なので、暗い中で一瞬明るくなる
v → i自然短音階の終止Vが短三和音になると、帰る力が弱く、浮遊した感じになる
i – ♭VI – ♭III – ♭VII短調の四和音ループラ → ファ → ド → ソ。小室進行の短調側から見た形
i – ♭VII – ♭VI – Vアンダルシア型ベースが半音ずつ下りる。フラメンコ、ロックで頻出

短調で聴き分ける最大の分岐はVとVの違いです。ハーモニックマイナー由来のV(長三和音)とナチュラルマイナーのv(短三和音)は、ルートが同じで性質だけが違います。ここは「ルートを追う」だけでは足りず、長短を聴く必要があります。

セブンスと借用和音は、色の違いを聴く

三和音の進行が聴き取れるようになったら、次は四和音と借用和音です。ここではルートの動きは同じで、響きの色だけが違うケースが増えます。

  • ii7 – V7 – Imaj7:三和音のツー・ファイブと同じ動きに、第7音の濁りと解決が加わる
  • IV → iv(サブドミナントマイナー):ルートは同じファのまま、長三和音が短三和音に変わる。「翳る」感じ
  • I – ♭VII – IV – I(ミクソリディアン終止):♭VIIはダイアトニックにない和音。ロックで「開いた」感じを出す
  • V7/vi(副属和音):viへ向かうための一時的なドミナント。「一瞬別のキーに行った」ように聴こえる
  • 12小節ブルース:I7・IV7・V7がすべてドミナント7thで、解決しないまま循環する

借用和音の理屈は借用和音と転調で曲を動かすで解説しています。耳の練習としては、同じルートで長短だけ違う2つを並べて聴く(IVとiv、Vとv)ことが、いちばん早く色の差を覚える方法です。

練習の手順

以上を、実際の練習に落とすと次の順番になります。

  1. カデンツで主音を立てる:I – IV – V – I(短調なら i – iv – V7 – i)を聴き、最後の主音を心の中で歌う
  2. 2つのコードの動きを聴く:V→I、IV→I、V→vi、ii→V→I の4つ。「帰ったか、帰らなかったか」だけを答える
  3. ベースを移動ドで歌う:4小節の進行を聴き、各コードのルートを「ド・ソ・ラ・ファ」のように歌う。歌えたらディグリーに変換する
  4. 長短を聴く:同じルートで長三和音と短三和音を聴き比べる。IV/iv、V/v から
  5. 選択肢から選ぶ:同じ長さ・同じ調性の候補から進行を当てる。間違えたら正解を聴き直し、ルートだけの音列も聴く
  6. 条件を変える:慣れたら別のキー、次に別の楽器。一度にすべての条件を変えない
  7. 実際の曲で確かめる:好きな曲の最初の4小節だけ、ベースを歌ってディグリーに直す。耳コピの手順のステップ3に相当

3の「ベースを歌う」は省かないでください。頭で考えて当てるのと、歌ってから当てるのとでは、定着の仕方が違います。音階を歌う練習が相対音感の習得に役立つという教育現場の観察研究もあり、心の中で主音やルートを歌ってから再生で確かめる、という流れを勧めています。

復習は「日を空けて」入れる

コード進行は100種類近くあり、1日で覚えられる量ではありません。同じ進行を続けて当てるより、間隔を空けて思い出す方が定着します。

目安として、助けなしで正解した項目は1・3・7・14・30日後に再び出題し、間違えた項目や聴き直した項目は数分後に早めに戻す、という組み方が実用的です。音程学習を対象にした研究で、練習の分散と項目の混合が有効だと報告されていることを参考にした設計値であり、コード進行100種に対する最適な日数が研究で確定しているわけではありません。

自分で管理する場合は、間違えた進行をメモに残し、翌日・3日後・1週間後に同じものを聴き直すだけでも効果があります。

伸び悩んだときの原因

症状原因対処
1つ目のコードで間違える主音を保てていない。最初のコードをIだと思い込むカデンツの最後の音を歌ってから聴く。IVやviから始まる進行を意識して練習する
長さで当てているルートを聴かずに、コードの数で候補を絞っている同じ長さの選択肢だけで練習する
特定のキーだけ正答率が高い音高そのものを覚えている(相対的に聴けていない)キーをブロックごと、次に1問ごとに変える
楽器が変わると分からなくなる音色の響きを手がかりにしている音色を変えて確かめる。ただし最初は固定してよい
三和音は分かるがセブンスで崩れる第7音に耳が引かれてルートを見失うルートだけの音列を聴き直し、四和音を「三和音+色」として聴く

なお、固定キーで練習を始めること自体は悪くありません。調の文脈と経験によって相対音高の判断方法が変わることを報告した研究があり、初心者が固定キーを足場にしてから段階的に条件を変える設計は、その知見と使いやすさを踏まえたものです。ただし、固定キーの優位性を長期訓練で実証した研究ではないので、足場は外す前提で使ってください。

TONARIOのコード進行トレーニング

当社が開発した相対音感トレーニングアプリ TONARIO:相対音感トレーニング は、2026年9月公開のバージョン1.1で、この記事の手順をそのまま練習できるコード進行の聞き取りを追加しました。

項目内容
収録5分野 × 20 = 100パターン。「基本の終止と循環」「ポップス・ロック」「短調」「ジャズ・セブンス」「借用和音・ブルース」
回答ディグリー4択。大文字・小文字で長短を区別。短調も主音基準で i/♭III/♭VI/♭VII と表記
出題前I–IV–V–I(短調は i–iv–V7–i)のカデンツで調を提示してから進行を再生
再生基本形の和音+低音のルート。回答後は正解の進行と、ルートだけの音列を聴き直せる
選択肢同じ和音数・同じ調性で揃え、同じ音の別表記は同時に出さない。長さだけでは当てられない
音色ピアノ・ギター・フルート・クラリネット・弦・オルガン・マリンバの7種を倍音・立ち上がり・減衰から合成(実録音ではない)。既存の3波形も選べる
キー固定主音(12キーから選択)、練習開始時・20問ごと・毎問の移調から選べる
復習助けなしの正解は1・3・7・14・30日後に再出題。誤答や聴き直しは早期復習へ。直近3問の進行は避ける
記録コード進行の成績は単音の度数成績と分けて記録

収録した100パターンは、定番と実用的な派生を選んだもので、移調は別パターンとして数えていません。出現頻度の上位100件を統計的に選んだものではなく、すべての派生に固有の通称があるとも主張していません。ライブラリの全パターンは、問題としてではなく試聴としても聴けます。

バージョン1.1では、通常の単音練習の初期設定もC固定・ピアノ固定・時間制限なしに変更し、固定主音や移調の頻度を設定で選べるようにしました。「最初から毎回キーが変わると音の属性を覚えられない」という利用者の声を受けた変更で、慣れたら別のキー、次に別の楽器へと段階的に条件を変えられます。設定画面の「練習ガイド」には、参考にした研究と、その研究がアプリの効果を直接示すものではないことを併記しています。

設計の背景はTONARIOのリリース記事に、単音の練習の順番は相対音感とはにまとめています。

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