耳コピが苦手な人の多くは、いきなりメロディから取ろうとしています。曲の最初の音を鍵盤で探し、当たるまで押し続ける。この方法だと1曲に何時間もかかり、しかも次の曲で同じ苦労を繰り返します。

耳コピには順番があります。順番どおりにやると、探す範囲が段階的に狭まっていきます。

📌 この記事の3行まとめ
① 最初に取るのはキー(調)。ここが決まると、使われる音が12個から7個に減る
② 次はベース。コードの根音が分かれば、和音は推測で当たる
③ メロディは最後。度数で覚えると、キーが変わっても書き出せる

手順の全体像

順番何を取るか決まると何が減るか
1キー(調)候補の音が12 → 7へ
2ベース音コードの根音が確定する
3コード進行メロディが乗る和音が決まる
4メロディ和音の構成音から予測できる
5細部(リズム、装飾、内声)全体の骨格に肉付けする

上から順に、「絞り込みの効率が高い順」に並んでいます。メロディから始めるのは、いちばん候補が多い状態で当てにいく行為です。

ステップ1:キーを特定する

キーが分かると、曲で使われる音の大半が7音に収まります。ここを飛ばすと、以降のすべてが総当たりになります。

もっとも簡単な方法は、曲の最後の音を聴くことです。 多くの曲は主音(ド)で終わります。終わったときに「ここで終われる」と感じる音、それが主音です。

途中で判断する場合は、次を試します。

  • ハミングして落ち着く音を探す — 曲を流しながら適当に声を出し、いちばん収まりが良い音が主音
  • ベースの最初と最後の音 — Aメロの頭やサビの終わりは主音であることが多い
  • 長調か短調か — 主音の上に長3度が乗るか短3度が乗るかで判定する

主音が見つかったら、それを鍵盤で1音だけ確認します。ここで初めて楽器を使います。「Cメジャーだ」と分かったら、以降は白鍵だけを疑えばよいわけです。

ステップ2:ベースを取る

ベースは音数が少なく、音域も低くて分離しやすいため、曲の中でいちばん取りやすいパートです。そしてコードの根音を教えてくれます。

コツは3つ。

  • イコライザーで低域を持ち上げる(またはベースが聴こえる帯域だけ残す)
  • 再生速度を落とす。ピッチを保ったまま50〜75%にできるアプリを使う
  • 4小節だけをループする。曲全体を流しっぱなしにしない

ベースを取るときも、音名ではなく度数で捉えます。「ド → ソ → ラ → ファ」と聴こえたら、それは 1 → 5 → 6 → 4、つまりI–V–vi–IVです。度数で覚えておけば、キーが違う曲で同じ進行が出てきたときにすぐ気づけます。

ステップ3:コード進行を当てはめる

キーが決まっていれば、使われるコードはほぼ次の7つに収まります(Cメジャーの場合)。

度数コード(Cメジャー)性格
IC帰る場所
iiDmサブドミナント的、やわらかい
iiiEm中間的、あまり多用されない
IVF開ける、広がる
VG緊張、Iへ帰りたがる
viAm短調的、切ない
vii°Bdim単独では稀

ベースの音が根音だと仮定すれば、進行はほぼ決まります。ポップスで頻出するのは I–V–vi–IV、vi–IV–I–V、I–vi–IV–V、そして小室進行と呼ばれる vi–IV–V–I などです。まず頻出パターンを疑うほうが、1つずつ確かめるより速く進みます。

判断に迷いやすい組み合わせと、その見分け方を挙げます。

  • IV と ii — 構成音が2つ重なる。ベースが4度なら IV、2度なら ii
  • I と vi — 明るく終われるなら I、切なく残るなら vi
  • V と iii — Iへ強く帰りたがるなら V

借用コードや転調が出てくると当てはまらなくなりますが、その扱いは借用コードと転調にまとめています。

ステップ4:メロディを取る

ここまで来ると、メロディの候補はかなり狭まっています。メロディの強拍は、その瞬間のコードの構成音であることが多いからです。Cのコードが鳴っている小節の頭なら、ド・ミ・ソのどれかである確率が高い。

そのうえで、次の道具を使います。

  • 1フレーズだけループする(2小節以内)
  • 取れないときはオクターブを変えて歌ってみる。声の出る音域に移すと急に取れることがある
  • 音を1つ特定したら、そこから次の音との関係(隣か、跳んだか、どちらの方向か)で追う

「跳んだ」と分かれば、それだけで候補は半分以下に減ります。すべての音を絶対的に当てにいく必要はありません。

メロディは音名ではなく、移動ドの度数でメモしておくと後から使えます。「ソ ラ ソ ミ レ」と書いておけば、キーを変えて演奏するときも、そのまま移せます。

ステップ5:細部を詰める

骨格が取れたら、リズム、装飾音、内声、ギターの刻み方などを詰めます。ここは繰り返し聴くしかない領域ですが、骨格ができていれば「どこがまだ合っていないか」が具体的に分かる状態になっています。

耳コピが進まないときの切り分け

行き詰まったとき、原因はだいたい3つのどれかです。

症状原因対処
キーが分からない主音の感覚が育っていないドローンやカデンツで主音を意識する練習をする
単音は取れるがメロディが追えない前の音の記憶が干渉している2〜3音の短いフレーズから練習する
コードが当てられない和音を1つの色として聴けていないまずベースだけを取り、コードは推測で埋める
特定の曲だけ取れない曲のキーが練習したキーと違うキーを変えた練習を取り入れる

最後の項目は見落とされがちです。1つのキーだけで練習していると、そのキーの音高を覚えているだけの状態になります。他のキーの曲で急に取れなくなったら、それが起きているサインです。

道具と環境

  • 再生速度とループ — ピッチを保ったまま速度を変えられるプレイヤー
  • イコライザー — ベースを取るときは低域、メロディを取るときは中高域
  • ヘッドフォン — 低音の判別には必須。スピーカーだと根音が曖昧になる
  • メモ — 音名ではなく度数で書く。「1 5 6 4」で十分

高価な機材は必要ありません。度数でメモを取る習慣のほうが、長期的にはずっと効きます。

上達の指標

耳コピが速くなったかどうかは、次で測れます。

  • キーの特定にかかる時間(最終的には10秒以内)
  • ベースを取るのに必要な再生回数
  • 度数でメモできる割合(音名に頼らずに済んでいるか)

どれも「正しく取れたか」ではなく「どれだけ速く絞れたか」を見ています。耳コピは当てるゲームではなく、候補を減らしていく作業です。

土台になる考え方は相対音感とはに、コード進行そのものの理屈は作曲のための音楽理論入門にまとめています。


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