デッサンで形が崩れるとき、たいてい原因は同じです。測っていないのです。
「なんとなくこのくらい」で線を置き、あとから全体を見て「なんか違う」と気づく。この繰り返しでは、どこが違うのかが特定できないので直しようがありません。デッサンの基礎とは、線を引く前に何と比べるかを決める手順のことです。
📌 この記事の3行まとめ
① 長さは絶対値ではなく「基準の何倍か」で測る(基準単位)
② 角度は「水平から何度傾いているか」で捉える
③ 形が合わないときは、物ではなく余白(ネガティブスペース)を見る
測る前に:画面を平面として見る
測定の前提として、目の前の立体を平面へ落とし込むという感覚が必要です。透明な板(ピクチャープレーン)を対象との間に立て、そこに映る像を描いていると考えます。
この感覚があると、「奥に伸びた腕は実際には短く見える」という当たり前のことが受け入れやすくなります。知っている長さではなく、板の上での長さを描く——これが以降のすべての測定の前提です。
1. 比率:基準単位で測る
いきなり全体を描き始めず、まず基準になる長さを1つ決めます。
- 頭部の縦の長さ
- 花瓶の口の幅
- 建物の窓1つ分の高さ
なんでもかまいませんが、画面の中で明確に見分けられて、繰り返し確認できるものを選びます。これを基準単位(Basic Unit)と呼びます。
決めたら、他のすべてをこの単位で表します。
| 測るもの | 表し方の例 |
|---|---|
| 全体の高さ | 基準の3.5倍 |
| 肩幅 | 基準の1.8倍 |
| 目から顎まで | 基準の0.5倍 |
鉛筆を持った腕をまっすぐ伸ばし、肘を固定して測る方法が一般的です。腕の伸ばし方が毎回変わると測定値も変わるため、肘を伸ばしきることを毎回同じにします。
デジタルであれば、基準の長さを示すマーカーを画面に置いて比較できます。手で測るより再現性が高くなります。
比率でよくある崩れ
- 顔が大きくなる — 注目している部分は大きく描かれやすい
- 奥行き方向が長すぎる — 短縮を認めず、知っている長さで描いている
- 左右が非対称 — 描き始めた側を基準にせず、両側を同じ基準で測っていない
いずれも「注目が測定を歪める」ことで起きます。自分の目を信じず、基準と比べることでしか防げません。
2. 角度:水平から何度か
角度は、比率と並んで形を決める要素です。ここでの捉え方は1つだけ。水平(または垂直)に対して何度傾いているかです。
「この線は斜め」では情報になりません。「水平から30度上がっている」なら再現できます。
実践では、鉛筆を水平に構え、対象の線と重ねて角度差を見ます。そのまま紙の上へ運びます。時計の針の角度(1時の方向、2時の方向)に置き換える方法も有効です。
角度で崩れるのは次の場面です。
- 傾いた線を水平・垂直へ寄せてしまう(脳が整えたがる)
- 遠近で強く傾いた線を、知っている角度(直角など)で描く
- 顔の左右の目を結ぶ線を、いつも水平にしてしまう
3つ目は特に頻出です。実際には顔はほとんどの場合わずかに傾いていますが、スキーマが水平へ引き戻します。
3. ネガティブスペース:余白の形を見る
形が合っているか確認するとき、対象そのものではなく対象と対象のあいだの空間を見ます。
- 椅子の脚と脚のあいだの形
- 腕と胴のあいだにできる三角形
- 対象と画面の端で囲まれた領域
なぜ有効かというと、空間には名前がないからです。「腕」には知っている形がありますが、「腕と胴のあいだの隙間」にはありません。名前のない形は、実際に見えているとおりに描くしかありません。
余白は3種類に分けると扱いやすくなります。
| 種類 | 例 |
|---|---|
| 閉じた穴 | ドーナツの穴、輪の内側 |
| 開いた隙間 | 腕と胴のあいだ、指と指のあいだ |
| 分割された背景 | 対象と画面の端で区切られた領域 |
描いた絵と見本の余白を見比べると、形のズレが余白のズレとして拡大されて見えます。輪郭を見比べているときには気づけないズレが、余白では一目で分かることがよくあります。
4. 明暗:線ではなく面として見る
明暗を「輪郭の内側を塗るもの」と考えているうちは、立体になりません。明暗は面の向きを示す情報です。
1つの光源が当たっている対象には、次の5つが現れます。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| ハイライト | 光が最も強く当たる点 |
| 明部 | 光が当たっている面 |
| 陰(コアシャドウ) | 光が当たらなくなる境目。最も暗いことが多い |
| 反射光 | 周囲から返ってきた光で、陰の中がやや明るくなる部分 |
| 落ち影 | 対象が他の面に落とす影 |
初心者がつまずくのは、陰と落ち影の区別と、反射光を明るくしすぎることです。反射光は明部より暗い、という原則を守ると、立体が破綻しにくくなります。
明暗を見るときは、目を細めて階調をまとめるのが有効です。細部の情報が落ち、大きな明暗のかたまりだけが残ります。まず3段階(明部・中間・暗部)にまとめ、それから細かくしていきます。
5. 描く順序:大きいものから
測り方が分かっても、順序が逆だと崩れます。原則は大形から細部へです。
- 画面のどこに、どのくらいの大きさで入れるか(構図)
- 全体を囲う大きな形(包絡・シルエット)
- 主要な分割線(中心線、水平・垂直の基準線)
- 各部分の比率と角度
- 明暗の大きなかたまり
- 細部
熟達者ほど大きな形から置くことが観察されています。逆に初心者は、目や指といった分かりやすい細部から描き始めがちです。細部から始めると、あとで全体が入らなくなります。
練習の組み立て方
1回30分程度で、次のように分けると測定の練習になります。
| 時間 | 内容 |
|---|---|
| 5分 | 見本を決め、基準単位を決めて主要な比率を3つ書き出す |
| 5分 | 主要な線の角度を3つ、水平からの角度で書き出す |
| 15分 | 大形から順に描く。細部には入らない |
| 5分 | 余白を見比べ、ズレている箇所を3つ特定する |
最初の10分は、1本も線を引きません。測るだけです。この時間を惜しむと、あとの15分が推測になります。
つまずいたときの確認項目
- 形が全体的に歪む → 基準単位を決めていない、または途中で変えている
- 傾きが合わない → 角度を「斜め」で済ませている
- 部分は合うのに全体が違う → 細部から描き始めている
- 立体に見えない → 明暗を輪郭の内側の塗りとして扱っている
- 何が違うか分からない → 余白で比べていない
なぜ観察を練習の中心に置くのか、その根拠は絵が上手くなるにはにまとめています。ドット絵のようにグリッド上で描く場合の基礎はドット絵の描き方入門をご覧ください。
これらの測定を、道具として画面に載せたのが私たちの開発した DrawingSight です。見本とキャンバスに対応する4×4グリッド、水平からの角度を表示する角度ガイド、基準単位マーカーを備え、エッジ・ネガティブスペース・比率と角度・明暗をモジュールに分けて反復できます。手で測るのが難しい方は、iPadで測る練習から始めるのも手です。
