「AIを使えば開発は速くなる」——もうこれは常識になりました。一方で、発注をご検討中の方からよく聞くのが「速いのはわかった。でも“雑なもの”が出てこない?」という不安です。これは正しい直感です。AIに勢いで書かせると、デモは動くのに本番で崩れる“壊れやすいもの”が簡単にできあがります。
この記事では、「速さ」と「品質」をどう両立させるかを、実際の開発を題材にお話しします。専門用語はできるだけ翻訳し、「どんな課題に、どう判断して、どう解決したか」を中心に。AI開発に興味のあるエンジニアの方にも読み物として楽しんでいただける内容です。
題材は、私が母の一言から実質1日で作った自動生成クロスワードゲーム 「クロスワードGo」 です。
📝 3行まとめ
① AIで速く作るほど、「品質を守る設計」をしないと“動くけど壊れる”ものになります。
② 私たちのやり方は、スピードはAIに、品質は“設計の型”で担保するという役割分担です。
③ その型を、1日でゲームを作った5つの判断としてご紹介します。
きっかけは、母の「私が遊べるゲーム作って」
ある日、母にこう言われました。「私が遊べるゲーム、作ってよ」。母はスマホは縦持ち、難しい操作は苦手。でも頭は使いたいタイプで、クロスワードや脳トレが大好きです。
これ、実はビジネスの「発注」とそっくりです。専門用語ではなく“ふわっとした要望”から始まり、使う人(母)は作る人とは別でITに詳しいわけでもなく、「なんとなくこういうの」を形にして見せて初めて話が進む。私はこの“あるある”を、Claudeを使ったバイブコーディングで1本のゲームアプリにしました。
「バイブコーディング」とは、ざっくり言えばAIと対話しながら“勢い(vibe)”で作っていく開発スタイルのこと。速い反面、勢いだけだと品質が崩れます。だから私たちは、どこを速くして、どこを丁寧に守るかを最初に決めます。以下が、その具体的な5つの判断です。
判断①:作る前に「何を作るか」をAIと固める
いきなりコードは書きません。最初にやるのは“要望の翻訳”です。母の「遊べるやつ」を、AIと壁打ちしながら次のように言語化しました。誰が=スマホ操作が得意でない母(シニア)。何を=縦持ち・片手・短時間で遊べる頭の体操。飽きさせない工夫=問題を毎回自動生成して“無限に”遊べるように。世界観=地味になりがちなクロスワードを、ゲーム『ペルソナ5』に登場するクロスワードのおしゃれなUIを参考に“遊びたくなる”見た目に。
ここがバイブコーディング最大のコツです。「ペルソナ5風のUI」「自動生成で無限に」という2つの軸を最初に確定させたことで、以降のすべての判断がブレなくなりました。逆に、ここが曖昧なまま走り出すと、AIは“それっぽいもの”を量産し続け、後で全部やり直しになります。
💡 発注者の方へ:私たちはいきなり見積もりや実装に入りません。まず「本当に欲しいものは何か」をAIで素早く何パターンも可視化し、認識を合わせます。ここでのすり合わせが、後の手戻り(=追加費用)を一番減らします。
判断②:デザインを“先に”決めて、合意を最速化する
機能から作る人が多いのですが、私たちは見た目を先に固めます。理由は単純で、発注者が判断できるのは「動き」と「見た目」だけだからです。文字だけの仕様書をいくら読み込んでも、できあがりは想像できません。
今回は『ペルソナ5』のミニゲームに登場するクロスワードの、赤×黒のスタイリッシュな世界観を参考に、AIでデザイン案を生成。「ここはもっと大胆に」「文字はもっと大きく(母が読めるように)」と対話で詰めました。ポイントは、最初から100点を狙わないこと。70点のたたき台を数分で出し、そこから一緒に直す。この往復が圧倒的に速いのです。
💡 発注者の方へ:「こんな雰囲気でどうですか?」と動くモックを早期にお見せすると、ほぼ毎回喜ばれます。完成イメージが共有できるので、認識のズレがその場で消え、「思っていたのと違う」という最悪の事故を防げます。
判断③:心臓部だけ「壊れない形」に切り出す
クロスワードGoの心臓は、盤面(問題)を毎回その場で自動で組み立てる生成エンジンです。ここが今回の技術的な肝でした。この手の自動生成を素朴に作ると、「たまに変な盤面ができる」「環境によって挙動が変わる」といった“再現しにくいバグ”の温床になります。納品後に「直して」と言いづらい、いちばん厄介な不具合です。
そこで私たちは、この生成エンジンだけを“ゲーム本体から切り離した純粋なロジック”として作ることを最初の設計判断にしました。具体的には、画面やゲームエンジンの機能に一切依存させず(同じ入力なら必ず同じ結果になる)、乱数の種(シード)を固定すればまったく同じ盤面を再現でき、単語が交差する位置にだけ語を足していって前後がくっつく不正な配置は機械的に弾く、という形です。
結果、生成ロジックは何度でも同じように検証できる状態になりました。「速く作ったけれど、品質をちゃんと説明できる」——これは受託開発でいちばん大事な状態です。
💡 発注者の方へ:これがプロの“引き算”です。全部をAIに勢いで書かせず、一番壊れたら困る部分だけをテストしやすい形に意図的に分離する。スピードを出す場所と、丁寧に守る場所を分ける——この見極めこそが、品質とスピードを両立させる正体です。
判断④:データはAIに量産させ、品質は“ルール”で守る
「無限に遊べる」を支えるのが、約1万語のことばデータベースです。動物・食べ物・自然・カルチャー・テクノロジーなど10以上のジャンルを、AIで一気に生成しました。ただ、AIに大量生成させると必ず“ゆらぎ”(表記ミス・重複・難易度のばらつき)が出ます。ここを放置するのが“雑なバイブコーディング”です。
私たちは「生成はAI、検品は仕組み」と役割を分けました。1語ずつ「やさしい説明」と「なぞなぞ風の説明」、さらに正解画面用の解説文をAIに付けさせたうえで、それを検証スクリプトに通し、「カタカナ2〜8文字か」「重複はないか」「説明が欠けていないか」を機械的にチェックして不正なデータは自動で除去。さらに難易度(1〜3)を付け、難しい語ほどヒントは易しく出す調整も入れています。
つまり、人が1万語を手で確認するのではなく、「正しさのルール」を一度だけ書いて全件に適用しました。これがAI時代の品質管理だと考えています。
💡 発注者の方へ:この発想は、商品説明・FAQ・問題集など“大量のコンテンツ”を扱う事業にそのまま効きます。AIで量産しつつ品質をルールで担保すれば、人力で1件ずつ作るより桁違いに安く・速く・均一になります。
判断⑤:一発完璧を狙わず、ユーザー目線で小さく回す
最後はマインドセットです。AI開発でつまずく方の多くが、「1回の指示で完璧を出させようとする」で詰まります。私たちは逆で、小さく作って → すぐ動かして → ズレを直すを高速で何周も回します。
たとえば、盤面が偏ったら「中央寄り・交差が多い配置を優先して」と指示を1行足す。母が「文字が小さい」と言えばその場で大きくする。そして象徴的だったのが、「答え以外のマスは埋めなくても先に進みたい」という要望。これを受けて、正解判定するのは“答えの欄”だけにして、ほかのマスは自由に書き込めるよう仕様を変えました。
これは地味ですが重要な判断です。AIは放っておくと「全マス埋めて判定」を当然のように作ります。そこに「正解しないと先に進めないストレスをなくす」という“使う人目線”を入れる。この一手間こそ、バイブコーディングにおける“品質”の中身です。
「で、本当に動くの?」を、どう担保したか
ここまでが“速さと品質の両立”の中身です。発注者にとって本当に大事なのは「壊れないの?」ですよね。クロスワードGoでは、心臓部の生成エンジンをゲームから切り離した純粋ロジックにしたことで、エディタの外でも繰り返し検証できるようにしてあります。さらにシードを固定すれば同じ盤面を再現できるので、「この条件で変な盤面が出た」という不具合も狙って再現し、確実に潰せます。約1万語のデータも、毎回検証スクリプトを通して不正な行を自動で除外しています。
「AIで速く作る」と「品質を保証する」は、対立しません。速くする場所と、仕組みで守る場所を分ける——ただそれだけです。
まとめ:速さは「AI」、品質は「設計の型」で出す
クロスワードGoを1日で作れたのは、AIが優秀だからだけではありません。どこを速くして、どこを丁寧に守るかを、工程ごとに判断したからです。
| 工程 | 速さの出し方 | 品質の守り方 |
|---|---|---|
| 要件決め | AIで要望を即・可視化 | 認識ズレを着手前に潰す |
| デザイン | たたき台を数分で何案も | 先に合意して手戻りを消す |
| 心臓部の実装 | AIに一気に書かせる | 純粋ロジックに分離し検証可能に |
| データ作成 | AIで1万語を量産 | 検証スクリプトで全件チェック |
| 仕上げ | 小さく高速に反復 | ユーザー目線で使い心地を判断 |
「AIに何をどう任せ、何を任せないか」を設計できること。 これがAIを“ただ速いだけ”で終わらせない、私たちの仕事の中身です。
私たちが提供できること
クロスワードGoの開発を通じて、私たちはこんなことが得意になりました。
- AIを活用した高速プロトタイピング(アイデアを、まず動く試作で安く早く検証する)
- “壊れない”作り方の設計(速さを出す場所と、仕組みで品質を守る場所の切り分け)
- AIによるコンテンツ量産+品質保証(大量のデータ・文章を、ルールで均一に整える)
- スマホゲーム・アプリ開発(思いつきを、実際に遊べるプロダクトに仕上げきる力)
「アイデアはあるけれど、何から始めれば?」——その段階のご相談こそ歓迎です。母の「遊べるやつ作って」を1日でゲームにしたように、御社の「あれ作れない?」も、まずは形にしてご提案します。


